SUB:SS>携帯電話     あ い    「A・Iはプリズム」FILE.2 携帯電話 by BLUESTAR  1996年夏。神戸ひとしはシンシア・マクドゥガル(シンディ)と出会った。そし て・・・シンディに振り回される日々を送っていた。 「ハロー、ひとし!!」  東京練馬にある神戸家の玄関に今日もシンディがやってきた。 「やあ、シンディ」 「ひとし、今日暇かな」 「・・・まぁいそがしくはないけどね」 「じゃ決まりねッ、レッツゴー」 「うわあああ。ちょっと待ってえ」  いきなりシンディに引きずられるひとしであった。 「今日はどこに行くんだい」  シンディはお嬢様で運転手付きの車を持っていたりする。エアコンがよく効いた車 の中で、ひとしはシンディにたずねた。 「今日はねえ、携帯電話を買う予定なんだけど」 「携帯電話・・・欲しいけど金がないからなあ」 「実をいうと、アメリカではいつもこれ使っているんだけど」  といってバッグから小さな携帯電話を取り出した。  ひとしの始めて見るタイプのものでどうやらアメリカのもののようだ。  アメリカの電話会社のマークが入っている。 「・・・持ってるならなぜ買う必要があるんです」  サーティがふしぎそうに聞く。 「実はこれ日本じゃつかえないの」 「えっ、どうして。それだって携帯電話じゃありませんか」 「そういえば聞いたことがある。日本の携帯電話は日本独自の規格で外国のものはつ かえないって」 「そうなのよね。せっかくワールドワイドにつかえるGSMだというのに、つかえない のよね。電話会社に聞いて見たら、GSMって日本じゃサービス自体存在してないって いうのよね。びっくりしちゃった」 「なるほどね。それで日本の携帯電話を買おうというわけだ」 「そういうこと。ところが私は日本の携帯のことなんてさっぱりわからない。それで ひとしに教えてもらおうと思って」 「うれしいけど・・・。ぼくだってそんなに詳しくないからなあ」  車はどんどん進んでいく・・・。3人の間で話題は尽きない。 「ところでシンディって15歳だったよね。そうすると学生なんだよね」 「・・・学生といえば、ひとしはハイスクールよね。どんな学校なの」  シンディはさりげなく話題をそらした。シンディは大学を卒業しているとはちょっ といいにくかったようである。 「そうだなあ・・・一応野球やサッカーで有名でもないし、東大合格率が優れている わけでもないし・・・まぁ普通の学校だよ。先生がみんなノートパソコンを使ってい る点をのぞけばね」 「先生がみんなノートパソコンって・・・日本ではそういう学校て多いの」 「いや、うちは特別みたいだね。友達の学校だとそうでもないっていうしね」 「ね、いまの東大ってなに。海のそばにある灯台のこと」 「・・・ああ違う違う。東京大学っていってね日本で一番・・・すごい大学だよ。も のすごく難しくてなかなか入学できないところさ」 「ふーん・・・MITとかスタンフォードみたいなところか」 「・・・まぁそんなところかな」  秋葉原はきょうもいい天気。 「・・・なんで秋葉原なんだ、シンディ」  車を降りて、歩いていくひとしたち。 「そうねえ。私とひとしのファースト・コンタクトの場所だから、なんてね。あと秋 葉原は世界にひとつしかないでしょ。だから来れるときに来ようと思ってね。もちろ ん携帯がどこでも売ってることぐらい知ってるわよ、ひとし」 「ファースト・コンタクト・・・ねえ」 「それで・・・どこで買う」 「どこでもいいわよ。ひとしにおまかせっ」 「・・・そういうことなら、ちょっと遠いけど、いつもいってる店にするか」  ひとしは先に立って、歩きだした。  しばらく行くと小さなビルがあった。ひとしは何のためらいもなく、地下へ向かっ ていく。 「さあついたよ」 「・・・こんなところにもお店があるなんて、さすが秋葉原ね」 「こんにちは、ジェスターさん」とサーティ。 「いらっしゃい〜。久しぶりだね、サーティさん。ひとし・・・めずらしいなお前が 他の女性を連れてくるとは。さては浮気かな」  眼鏡をかけた青年がにこやかに応対する。 「ジェスターさん、そんなんじゃないですよぉ」 「ならいいけどね。しかしいいなあひとしは。かわいい女の子と一緒で」 「ははは・・・。ところで今日は携帯買いにきたんだけど。俺よりジェスターさんの 方がくわしいでしょ」 「そりゃそうだけどね。それにしてもひとし、お前毎月みかかで悲鳴してるくせに携 帯なんかもったら破産しないのか」 「だぁぁぁ。買うのはシンディだよ。だから安心してくれ」 「そういうことか。なら安心だ。なにしろひとしは高校生のくせに・・・」 「ストップ。それ以上いわないでくれええ」 「ねえひとし・・・みかかってなんなの」 「日本最大の電話会社、NTTのことだよ。ネットワーカーはよくそう呼んでる」 「ああ・・・NTT。アメリカでいうAT&Tみたいな会社ね」  とシンディ。 「さて・・・どれにしますか、シンディさん」  とジェスターは言った。 「・・・そう言われてもわかんないんだけど、日本の電話会社は」 「一番サービスエリアが広くて一番値段や料金が高いのがNTT-MC。ディジィホンや ツートンセルラーはNTT-MCよりエリアが狭いけど値段や料金が安い・・・そんなとこ ろかな」 「NTT-MCってNTTの関連なの」 「そのとおり。NTT Mobile Communicationsっていちいち言うのは面倒だから省略して るけどね」 「ふーん・・・。料金ってあそこに貼ってあるやつね。円で書いてあるからなんかピ ンとこないわね」  じっくり品定めをするシンディ・・・ 「ジェスターさんは今どれ使ってるんです」  とひとし。 「実は最近新しいのにしたんだ。これだけどね」 「やっぱりNTT-MCなんだ」 「電波の入りはNTT-MCが一番だからね。これでもう少し安いといいけどね」 「いいなあ。俺も欲しいよ〜」 「はは。高校生のくせに携帯なんて生意気だぞっ」 「決めたわッ。これっ。デザインが気に入ったわ」  とシンディ。 「東西ディジィホンですね、ありがとうございます・・・それじゃ書類を」  シンディはバッグから書類とパスポートを出した。 「・・・アメリカ人だったんですか。どれどれ」 「ファースト・ネームは・・・シンシアでいいのかな」 「ええ」 「はいOK・・・支払いは」 「カードで」 「おおぅ。こいつはアメックスではないか。うちでアメックスは久しぶりだなあ」 「そんなにめずらしいですか」とひとし。 「もちろんカード自体はよくみるけどね。アメックスはたまにしかみないから」  ・・・というわけでてきぱきとやがて手続きは終わり、シンディは携帯電話を入手 したのであった。 「はい、ひとしこれ」  と店の外でシンディは小さな紙片を差し出した。紙片には "CiNDY 080-FCG-3755"と書かれている。 「シンディ・・・これ・・・いいのか」 「もちろん。あ・・・ひとしの電話番号教えてくれるかしら」  そういって手帳とボールペンを差し出すシンディ。 「えーと・・・ここでいいかな」と書くひとし。  "神戸 03-3ACE-2115" 「ありがと・・・せっかく番号教えたんだし電話してねっ」 「はいはい」 「ひとしさんいいんですか」  とサーティ。 「友達に電話番号教えちゃまずいのかい」 「・・・いえ。そんなことは・・・」 「ねえねえ、ひとし。ところで今のジェスターさんて・・・日本人・よねえ」 「ああ・・・ジェスターというのはハンドルネームだよ」 「ハンドル・・・ああ通信でつかうやつね。車じゃなくて」 「そうそう。もともと地元のネットの知り合いでね、いい人だったろ」 「ええ・・・。でもどうしてジェスター−道化−なんて」 「一度前に聞いたことがあるよ。小説のキャラクターで、大富豪で宇宙軍の隊長から とったていってたな」 「へえ。そうなんだ」  秋葉原はきょうもいい天気。まだまだ太陽が熱い。 「ねえ、ひとし、そのへんで何か飲まない」 「ああそうだね。・・・いいだろサーティ」 「ええ」                                1997/4/21-4/21 /POST