月は東に日は西に - Operation Sanctuary - SS/       「青空のウィスパード」by BLUESTAR  20××年。  時空転移装置が実験中に暴走して、白い闇に包まれた。  白い闇が薄れるとそこには奇妙な服をきた3人の男女がいた。 「みなさん、大丈夫ですか」と結先生が声をかける。 「肯定する」と黒い学生服の男。 「私は大丈夫です」とアッシュ・プロンドの髪の少女。 「なんとか大丈夫だけど・・・ここっていったいどこなのよ」ともう一人の少女。  二人の少女が着ているものはどうみても同じ制服だった。  結先生はまずは謝罪し、自己紹介し、それから時空転移装置とその暴走について説明 した。時々恭子先生も会話に加わる。  3人のうち二人の少女からはいろいろと質問が飛んだものである。  やがて3人は自己紹介をした。  3人は東京都立陣代高校2年で、クラスメートだという。  学生服の男の名前は、相良宗介(さがら・そうすけ)。  アッシュ・プロンドの髪の少女の名前は、テレサ・マンティッサ。アメリカ合衆国の ポーツマス出身で、日本の高校に短期留学中だという。  そして最後の女性は、くだけた口調で、千鳥かなめ(ちどり・かなめ)と名乗った。  かなめは私たち3人はあくまで普通の学生です、とか強く強調した。  3人がいたところは1999年9月の東京だという。つまりちょっと前の過去だ。  ・・・もちろんこの3人はまったく普通の学生ではなかったが、結先生や恭子先生に それがわかるはずもなかった。  相良宗介は、傭兵組織ミスリルの一員であり、軍曹。  テレサ・マンティッサという偽名を使うテレサ・テスタロッサ、通称テッサはミスリ ル所属で、潜水艦トゥアハー・デ・ダナンの艦長で、大佐。  千鳥かなめは、国連環境高等弁務官の娘である。高校の生徒会副会長。  そして、テッサとかなめは、ウィスパードと呼ばれる特殊な能力者だった。二人の住 んでいる世界に本来存在しないブラック・テクノロジー(存在しない技術)をすらすらと 理解できるのだ。だからこそ、テッサは潜水艦を再設計してのけたのだし、かなめも かつてトゥアハー・デ・ダナンが乗っ取られた時に「特殊」な形で活躍することができ たのだ。  テッサとかなめは、同い年である。どちらが上なのかは微妙なところだ。二人の誕生 日は、1982年12月24日で16歳。約3ヶ月後には17歳である。 「一応、身分証明書・・・そうね学生証をみせてもらえますか」と結先生。 「もしかして疑ってるんですか」とかなめ。 「一応念のためですよ。中連や欧連のスパイだったりしたら嫌ですから」 「ちゅーれん、おうれん・・・ってなにそれ」  そして、結局かなめは学生証を結先生にわたした。 「うーん・・・多分本物ですね。すいません疑って」 「わかればいいのよ」 「・・・あれ・・・これは・・・これはなんて読めばいいのですか」  結先生は学生証の発行日を指してたずねた。 「"平政(へいせい)"11年よ。日本の年号よ」 「違います。そんなはずは・・・ああ・・・まさか」  そう言って結先生は時空転移装置のコンソールにかけよりなにやら調べている。 「・・・やっぱり次元定数が。ということは・・・」 「あの〜、なにをあわてているのでしょうか」とテッサ。 「あなたがたは、パラレルワールドの過去からこの21世紀に次元転移してきたという ことです。この世界の日本の年号は平成(へいせい)といって、平行の平に成長の成と かくんです。間違っても政治の政じゃありません」 「あちゃ〜。年号が違うなんてまいったわねえ。でもまあ発音は同じなんだからたい した違いじゃないと思うけどね」とかなめ。 「千鳥さん、あなたはそういいますけど、他にも多分違うところがあると思いますよ。 こちらの日本はアメリカに守られた平和ぼけの国でしたけど、そちらはどうですか」 「それは一緒。韓半島は分断されてるし、南北中国は内戦だし、香港は分断されてる けど、日本は平和ぼけな国だったから」 「・・・南北中国、香港分断・・・そこがすでに食い違ってるわ。そもそもこの世界 じゃ22世紀に至るまで香港分断なんてなかったわよ」と恭子先生。 「そうですか。・・・ところでこちらの香港は今はどうなってますか」とテッサ。 「1997年に中華人民共和国にちゃんと返還されたわよ。50年間は一国二制度とい うことでやっていたみたいね」 「・・・つまりこっちの香港はずっと平和だったということですね。私の知ってる香港 とはすごい違いよね、ソースケ」とかなめ。 「肯定する」  ・・・その後歴史やら地理の話題が怒濤の勢いで展開された。  その結果、ふたつの世界には違いがいろいろあることが判明した。  かなめたちの世界では、  ・人類史上3発目の核攻撃が湾岸戦争時のクウェートで行われたこと  ・AS(アーム・スレイブ)という巨大ロボットみたいなものが存在すること  ・1999年でもソビエト連邦が存続していること  ・ゴルバチョフ・ソ連書記長が暗殺されてしまったこと  ・国連環境高等弁務官というものが存在していること  ・日本最大の航空会社が日本航空でなくムサシ航空  ・・・などなど次からつぎへと違いがみつかったのである。  そして話が一段落したところでかなめが腹へったな〜といいだし、学園のカフェテリ アで夕食ということになった。すでに閉店時間まで1時間を切っていた。 「いらっしゃいませ〜」と茉理が出迎えた。 「いいわねえ、それ」とかなめは茉理の着ている服を指す。 「そうですね。この服めあてでここではたらいてますから」 「ところでウェイトレスさん、私と年は同じくらい、かしら。私は高校2年だけど」 「それでしたら、私は1つ年下になります」 「あらそうなの」  茉理は5人を案内してそのまま注文をとった。 「あのウェイトレスさんですけど、なかなか明るくていいかんじですよね」とかなめ。 「そりゃあね。渋垣だったらウェイトレス・オブ・ザ・イヤー有力候補だし」と恭子先 生。 「なんですか、それ」 「要するにウェイトレスの人気投票よ。渋垣人気あるしねえ」  しばらくして茉理たちが料理を運んできた。 「以上です。それからもうすぐ閉店なので、これがラストオーダーになります。ご注文 がありましたらどうぞ」  テッサは静かにコーヒーを飲み、かなめと結先生は首を横に振り、宗介は追加はない とつぶやいた。 「・・・追加なし。いっていいわよ、渋垣」 「了解です。・・・ところでみなさんはよその学校のかたですよね。どちらからですか」 「・・・話していいのかな、仁科先生」とかなめ。 「渋垣は装置やオペレーションのことも知ってるから、話していいわよ」 「・・・ウェイトレスさんがなんでそれを知ってるんですか」 「だって渋垣の親友ってさ未来人なのよ」  未来人というところだけ声を潜める恭子先生。店内にいる客は他にはいないが。 「・・・とんでもない学園ですねここって」 「まあねえ」 「・・・私達は、東京都立陣代高校の2年。1999年の」 「なぁんだ・・・たいして時代的に離れていないんですね」 「そうでもないわよ。なんでも、ソ連がまだ存続してる世界なんですって」 「・・・ソ連・・・じゃあもしかして冷戦とやらがまだ続いてるんですか」 「まだ続いています。熱戦にならないといいんですけどね」とテッサ。 「肯定する。熱戦になったら人類の歴史が終わりかねないからな」 「ところで、あなた日本語は得意なんですか」 「はい。日本語も得意です」 「もって・・・あの・・・」 「テッサ、語学堪能だもんね。そういう点はちょっとうらやましいな」 「かなめさんも努力すればなんとかなると思いますよ」 「ははは。まぁたそういうことをいうんだから。私はテッサのようなお嬢様な育ちじゃ ないしね」 「・・・かなめさんとテッサ、さん、ですか。お二人とも仲がいいんですね」 「ええ友人ですから」とテッサ。 「そうね。それにまあた・・・誕生日も一緒だしぃ」 「そうですね。二人とも12月24日なんですよ」にこやかにテッサ。 「へえそうなんだ。それじゃ二人で合同でバースディパーティとかするのかな」 「グッドアイディア。今年のクリスマスイヴは二人でパーティしたいわね」 「都合がつけばの話ですけどね」  ・・・1999年12月24日は、かなめは学校行事で豪華客船に、テッサは任務、 ということでバースディパーティは開けなかったがそれはまた別の話である。  時空転移装置の修理は1週間の予定である。  その間かなめたち3人がどこに住むのかについては、あっさりと駅前のシティホテル に決定した。  蓮華寮にあきがなく、しかたなくそういうことになったのだ。  翌日は土曜日。公立の陣代高校は土曜は休みなのだが蓮美台学園は土曜は午前授業で ある。  午後、ホテルにやってきた恭子先生と合流した3人は街に繰り出した。 「そういえば、蓮美市っておっきな店も多いし、人もあふれるてし。もしかして大都市 なのかな」とかなめ。 「一応70万都市だからねえ」 「へえすごいじゃない」  かなめ、テッサ、宗介と恭子先生は町中をうろついて、服を買ったり、食べ物を買っ たりといった具合で時が過ぎていった。  夜。4人は時空転移装置室で、結先生にプリンを差し入れた。 「ありがとうございます。こんなにたくさんのプリンを・・・」 「結先生てプリンが本当にお好きなんですね」とテッサ。 「あのね、テッサさん、この子の場合は中毒だからねえ」 「中毒、ですか。それって危険なのでは・・・」 「結は毎日プリンばかりだからねえ。これだけプリンばかりでどうして太らないのか しら」 「恭子〜。そういう恭子だってコーヒー中毒じゃないですか。保健室にコーヒーの臭い が充満してるのは恭子の中毒ぶりが原因なんですから」 「・・・もしかして二人とも同じレベルですか」とかなめ。 「心外ですっ。このプリンに対する愛をみくびらないでください」 「こっちだって同じよ。コーヒー一筋800年の心意気を見損なわないでほしいわ」 「・・・それにしても仲がいいですね、お二人とも」とテッサ。 「確かに仲がいいわよね。妙なところで息あってるしね」 「結〜。中毒といえば、こちらの相良くんはカロリーフレンド中毒よ」  カロリーフレンドは、ブロック状の食品である。コンビニやドラッグストアで気軽に 購入できる。 「私のセンターの知り合いにもカロリーフレンドが好きな人多かったです。研究に熱中 すると食事どころじゃなくなりますからね。その点カロリーフレンドはちっちゃくてコ ンパクトで長期保存も利きますし、値段も手頃ですからね」 「ソースケの場合、カロリーフレンドって中毒というより、ほとんど主食でしょ」 「肯定する。よくみてるな、かなめ」 「伊達にいつも一緒にいるわけじゃないからね」 「かなめさん、そんなに相良さんてカロリーフレンド食べてますか」 「食べてるわねえ。ていうかソースケの場合、カロリーフレンドって軍のレーションと 同レベルってかんじだし」 「軍のレーションってどうしてそんな単語がでてくるのかしら」と首をかしげる恭子。  翌日は日曜日である。  恭子先生がドライヴに行くということでかなめたちも一緒にいくことにした。  恭子先生は久住は多分暇でしょうからといって直樹のケータイに電話した。予想通り 直樹はやってきた。  結先生の愛車のまるぴんに乗ってドライブが始まる。 「仁科先生っていつもあんな運転してるの、久住くん」とかなめ。 「今日はいつもよりだいぶおとなしかったな」と直樹が答える。  学園からかなり離れた海辺のドライブインは静かだった。 「あなたたちは大丈夫なの」と恭子先生はテッサと宗介に聞く。 「あれぐらいの揺れでしたら大丈夫です。潜水艦なんかもっと揺れますから」 「・・・潜水艦って妙なたとえねえ」  テッサの本業は潜水艦の艦長である。 「なかなか揺れましたが、どうということはありません。性能の悪いアーム・スレイブ なんかもっと揺れますから」 「はっ。アーム・スレイブって確かロボットみたいなものなんでしょ。乗った経験でも あるのかしら」 「もちろんこう・・・」 「ソースケ、あんたまたへんなこといってるわね」とかなめが大声で割り込んだ。 「へんなことってあの・・・どういういみ」 「すいません仁科先生。ソースケってときどきへんなことをいうくせがあって。ちなみ にいまのは、えーと・・・そういうゲームがありましてそれと比較したんです、そうよ ねっソースケっ」 「そういうことだ。問題ない」  ドライブインからしばらくいったところにあるファミレスで昼食となった。  かなめたちのもっているお金はもちろん使えないので恭子先生が4人分払うことにな っている。 「装置の件の話はきいたけど、3人とも大変ですね」と直樹。 「そうね。いい迷惑よね。早く帰りたいわ」とかなめ。 「長いこと連絡を絶つことになりますから部下のみんな心配してるでしょうし」 「・・・部下って・・・」と直樹。 「あのあの・・・その・・・」とあせるテッサ。 「世話になってるブッカー家のみんなが心配してるって意味よ」 「なあんだそっか。いやあてっきりさ職場の部下のことかとおもっちやったよ」 「くーずみー。テッサさんは学生よ、会社づとめじゃないんだからね」と恭子先生。 「そういやそうですよね。それにしてもテッサさんってかわいらしくていいなあ。茉理 にもこういうとこは見習ってほしいねえ」 「茉理・・・って何ですか」とテッサ。 「久住の従妹よ。初日にカフェテリアでツインテールのウェイトレスに会ったでしょ。 彼女のことよ。フルネームは渋垣茉理」と恭子先生が答えた。+ 「へえ、あのウェイトレスさんが従妹なんだ。茉理さんだって充分かわいいわよ」 「外見はな。茉理は残念ながら内面のかわいさがいまひとつなんだ」 「いまひとつ・・・ねえ」 「それじゃ久住内面のかわいい女の子っていうのはどんな子よ」と恭子先生。 「そうですねえ、身近な例ですと、ちひろちゃんとか」 「確かにあの子、おとなしめでかわいらしいものね」 「ええそうですよ」  コーヒーを飲み干したテッサが問いかける。「ちひろさんてどんなかたですか」 「しずかでおしとやか、かな。花が大好きでね、園芸部部長として活躍してるんだけ どね」 「そうなんですか。一度あってみたいですね」  時空転移装置の修理中の間、学園で授業を受けてみないと恭子先生から誘われたのは 日曜日の夕方だった。かなめたち3人は他にすることも予定もないからとあっさり承諾 した。  そして3人は高校2年だからということで、学園の2年B組に短期転入ということ になったのである。 「短期だけど3人はいるからよろしくね。それじゃ自己紹介」と恭子先生。 「千鳥かなめです。スポーツも割と得意です。よろしくっ」 「テレサ・マンティッサです。日本語は大丈夫なので、いろいろと話をしたいです」 「相良宗介。以上」 「3人とも東京の高校からの転入よ、仲良くねっ。それから結先生から天文部へ伝言、 転入生の世話をお願いします、だって」  その日の数学の授業では、テッサとかなめが当てられて問題をあっさり解いたもので ある。  休み時間は、テッサとかなめのまわりに人だかりができて質問ぜめとなった。  放課後、3人は学園内を案内された。 「蓮美台学園てすごいわね。陣代高校は公立だからさ設備とかしょぼいんだけど、こ こはいたれりつくせりっていうか。特にあのカフェテリアは実にすばらしいわね」  と感想を述べるかなめ。 「確かに設備面はなかなかです。ところであのセキュリティはどうなんでしょうか」  テッサはたずねた。 「そういうのは、結先生や仁科先生なら知ってると思うけど」 「ここだけの話だけど、セキュリティには金かけてるわよ。最新の防犯設備だし、カ メラやレーザーやセンサーもフル装備。通信回線も4系統あるし、小型衛星から蓮美市 全域を常時監視までしてるわ」  やってきた仁科先生がテッサにこっそりささやいた。 「なかなかすごそうですね」 「もちろんよ。さらにP4レベルの研究室もあるし、医療面では大学病院レベルの設備 がこっそり用意してあるの」 「なんかすごいですねえ」とかなめ。 「まあそんなところかしら」  ・・・そして時が過ぎてゆく。  テッサとかなめは時空転移装置そのものに興味を持ったようで、夕方以降は装置室に 入り浸りだった。宗介は理事長室あたりで雑誌や本を読んでいたりする。  結先生は装置の修理のかたわらいろいろと説明する。  テッサとかなめはかなり超難解な理論や数式もわかるので結先生にしても教えがいが あるのだ。 「それにしても、二人ともすごいですねえ。時空理論の理解は私ですらちょっと苦労 したのにあっさりマスターしましたねえ」 「天才少女である結がそういうってことはこの二人、もしかして相当すごくない」  と恭子先生が問いかける。 「そうですね。さしずめ超天才少女といっていいと思いますよ」 「結先生て天才少女だったんですか。・・・いまも少女ではないんですか」 「テッサさん、私はこんな体ですけど年齢的には大人なんですよ」 「大人って・・・私たちよりも年上なんですか」驚くかなめ。 「そうですよ」 「仁科先生、結先生って天才なんですか」とかなめ。 「プレスとかは天才少女って報道してたからねえ。なにしろ国立科学技術研究センター の最年少の研究員でねえ」 「国立ってことは日本政府の研究機関ですか」とテッサ。 「そうですよ。この時空転移装置もそこで開発していたもので、本来なら国家機密なん ですよ。確かマルバス以前ではブラック・シークレット扱いで、関係者以外では首相と 科学技術情報開発大臣と財務金融経済産業大臣しか知らないという代物でしたから」  科学技術情報開発大臣は国立科学技術研究センターを管轄する大臣であり、財務金融 経済産業大臣は国家予算を担当する大臣である。極秘の研究開発費をひねりだすために やむなく関わっていた。 「つまり国家プロジェクトだったんですね。マンハッタン計画みたいな」 「あんな恐ろしいものと一緒にしないでください。純粋に科学的な目的で開発していた ものですからね。ただ秘密だったのは、周辺諸国からいろいろといわれるのが嫌だった からですよ。特に韓連とかシベリアとか中連あたりはことあるごとに日本にいちゃもん つけてましたからねえ」 「・・・今のってもしかして国名ですか」とテッサ。 「そうですよ。こちらの世界では20世紀末にソ連が崩壊したあたりから国の分割やら 崩壊やら再編がいろいろあって、21世紀末の国連加盟国なんか240もありました からねえ」 「どうやったふらそんな数になるのかしら」とかなめ。 「ソ連が崩壊して元の15の国になったので14増えてます。そういった国々でまた いろいろあってさらに増えてます。それからアジアや中東もいろいろあって増えまし たし、アフリカも増えてますね。テッサさんはアメリカ人ですから北米大陸だと、カ ナダから独立したところと、アメリカから独立したところもありましたね。それで 240です。ヨーロッパは欧州連合が政治的な統一をめざしているんですけど、まだ道 なかばですね。欧州連合が統一国家になるのは22世紀なかばになるだろう、という論 文を読んだことがあります・・・まあマルバスのせいでみんなご破算ですけどね」  そして2週間がすぎて、ようやく時空転移装置の修理が完了した。  テッサとかなめはすっかり時空転移装置のことについて知識をものにしたようであ る。 「結先生。いろいろ教えてもらってありがとうございました」とテッサ。 「どういたしまして。なかなか優秀だったのでこちらとしても教えがいがありました」 「そうですか。・・・元の世界に戻ったら時空転移装置のについて研究するつもり です。20世紀末であれがつくれるかどうかは難しいですけど」 「がんばってくださいね。それからくれぐれも暴走には注意してくださいね」 「そうですね」 「この学園、いいわねえ。特にあのカフェテリア。・・・戻ったら会長に頼んでみよう かしらね」とかなめ。 「うむそうだな。ただあのままではセキュリティが不安だが」 「だからって要塞みたにするのは却下よ、ソースケ」 「会長って、陣代高校の学生会の会長のことかしら」と仁科先生。 「ええ。頭もよくて、鋭くてなかなかやり手の会長なんだけどね」 「でも一学生が頼めるのかしら」 「かなめさんは、副会長として活躍してるんですから」 「千鳥さんて、副会長だったのね。すごいわねえ」 「会長のすごさにはとうていおよびませんけどね」 「それではお元気で・・・転送開始」と結先生。  結先生が操作をすると、光が3人をつつみそして消えた。 「結。ちゃんと帰れたかしら」と仁科先生がつぶやく。 「そのはずです。少なくとも装置に異常はありません」 「それにしてもあの三角関係、どうなるのかしら」  結先生も仁科先生も2人の少女が相良宗介に対して特別な感情を持っていることには はやくから気づいていた。 「きになりますけど・・・確かめる方法がありませんから」 「そうなのよね。ま、どっちとくっくにせよ、あの相良くんは果報者よね」 「そうですね」           ★  テッサたち3人が無事元の世界に戻ってから約3ヶ月後の2000年1月。  合金(アマルガム)という組織によってミスリルは壊滅的な打撃を受けることになる。  もちろん、ミスリルの生き残りはちゃんと反撃に打って出た。 「メリッサ、大変なことになりましたね」 「そうね。かなめもさらわれちゃったしねえ」 「事前に合金(アマルガム)の動きがもう少しわかってればこんな壊滅的な被害は受けな かったのにね」 「実はこんなこともあろうかとあれをつくっておきました」 「あれってなんなのよ、いったい」 「時空転移装置」 「・・・どういうしろものなの」 「時空を移動できます」 「・・・タイムマシンみたいなものか」 「まあ単純にいえばそんなところです」 「・・・ECSやアーム・スレイブあたりもSFみたいだと思っていたけどさ、それっ てさもうばりばりにSFだよ」 「そうですね」  合金(アマルガム)とのその後の戦いにおいて、テレサ・テスタロッサとその仲間たち は大きく活躍することになる。テッサが作り上げた時空転移装置がどのように活躍した のかは、また別の話である。 Fin. ------------------- 2006/7/20-2006/7/28                あとがき  「はにはに」+「フルメタル・パニック!」です。  年代設定がもともとあわないですね。フルメタは1999〜2000年の話なので どうやってもかみあわない。  ・・・というかフルメタ世界はソ連が存続してたり、クウェートに核が落ちたり、 アーム・スレイブなどというロボットまであったりするというとんでもない世界 ですから、はにはにとは「別次元」で問題なしってことで。  テッサが陣代高校にやってきた時の話なので時期は9月。  フルメタ長編でいうと、潜水艦シージャックの後になります。  このときテッサは偽名だったわけで。そういうことで結先生たちも最後まで彼女の名 前をテレサ・マンティッサだと思ったままですな。  題名のウィスパードは、フルメタ世界の特殊な能力者のことで、テッサとかなめがそ うなわけです。本来「テッサとかなめの住んでいる世界」に存在しない技術について なぜか知っているということで、とんでもないわけです。かなめにいたっては勉強なん かしなくても理数系の問題がすらすらわかるとか。  テッサにしてもかなめにしてもとんでもない天才少女なわけで。  そこでテッサなら時空転移装置を理解できてつくれるんじゃないかな、とおもったん ですけどね。なにしろ潜水艦を再設計しちゃうような人だしねえ。  この話のヒロインが誰なのかもうおわかりですね。  というわけで、今回のミッションはテッサの異世界ほのぼの日記でした(爆) by BLUESTAR. 2006/7/28