月は東に日は西に - Operation Sanctuary - SS/       「蓮美台クロスオーバー2/蓮美台の魔法使い」by BLUESTAR  ●S(シーン)−1 地球、日本国、蓮美市、蓮美台学園、時空転移装置室  時空転移装置が実験中に暴走して、白い闇に包まれた。  白い闇が薄れるとそこには奇妙な服をきた女がいた。  かつて、結先生と恭子先生がシンフォニア王国に飛ばされた時に世話になった女の人 だった。彼女の名前はラピス・メルクリウス・フレイア。 「大丈夫ですか、ラピスさん」と結先生はたずねる。 「うん。大丈夫だよ。……どうしてお二人がここにいるのかな」 「それはこっちの台詞よ。あなたがここにきたんだからね」と恭子先生。 「そうすると、ここはチキュウなんだね」 「はいそうですよ」と結先生。 「チキュウといってもどのあたりかな。アメリカ、ヨーロッパ、アフリカあたりかな」 「日本の蓮美市です」と結先生は答える。 「ジャパンなんだ。それじゃ、キョウコとユイはもしかして日本人なの」 「ええそうよ」と恭子先生。 「今は何年ですか、西暦でいうと」 「21世紀のはじめですよ」と結先生。 「そんなはずは……だって今は西暦2285年じゃないんですか」  2285年は23世紀である。 「いいえ。ここは21世紀です。どうやらこことシンフォニアの間には空間と時間が大 きく異なるようですね」と結先生。 「それじゃ、地球連邦政府はまだできてないんですか」 「ラピスさん、その地球連邦というのはいつできたんですか」 「西暦2018年だよ」 「……なるほどなるほど。そういうことですか」 「結、何納得してんのよ、ちゃんと説明してくれない」と恭子先生。 「おそらく、シンフォニア王国というのはパラレルワールドだということです。ラピス さん、意味はわかりますか」 「パラレルワールドという単語は知ってるよ。でもどうして断定できたのかな」 「ここの歴史では22世紀になっても地球連邦というものは存在していないんです」 「ちょっと待って。今は21世紀なんでしょ。どうして22世紀のことがわかるの」 「実は私と恭子は、ここから100年後の、22世紀の人間なんです」 「ええっ。それじゃ二人は未来人になるんだね、びっくりだよ」 「なあにいってんのよ。23世紀人のラピスに言われても説得力ないわよ」と恭子。 「あっそれもそうか。……そういえば前に会った時に転移するのは2回目だって」 「そうです。22世紀から21世紀、21世紀からシンフォニア、これで2回です」と 結先生。 「どうやら、お互いにもっと情報交換したほうが良さそうだね」  それから3人はコーヒーを飲みながら、話をした。  結先生と恭子先生はオペレーション・サンクチュアリと時空転移装置についての話を 展開した。  そしてラピスは、シンフォニア王国のある星、アルセ・マジョリスについての話と、 宇宙開発についての話などをした。  地球からアルセ・マジョリスまでは45光年。宇宙船の速度も通信の速度も光速を超 える技術はまだない。つまり、往復するだけで90年もかかることになる。冷凍睡眠が あるから宇宙船内の人間は歳月を重ねることはないが、外の世界では着実に時間がすぎ てゆくのだ。  急速に宇宙移民が推進されたのは、当時の地球の人口爆発と環境破壊が大きな問題に なっていた。2050年時点で110億人を超えた人口はいかなる学者たちの予測をは るかに上回っていた。  大昔のアニメでスペースコロニーへの移民と地球連邦とコロニーの独立戦争を描いた アニメがあった。その作品と同じく現実の地球連邦政府はコロニーの建設にょって人口 問題を解決しようとしたのだが、計算上コロニーの建設速度が人口増加に間に合わない ことが判明し、遠い惑星への宇宙移民が最終的な解決策とならざるを得なかったのだ。  アルセ・マジョリスへの移民は2隻の宇宙船だった。2070年出発、2116年到 着。王国暦の元年はアルセ・マジョリスへの移民船が出発した年であった。 「というわけで、王国暦215年というのは西暦2285年になるんだ」とラピス。 「王国暦の1年の長さは地球のグレゴリオ暦と同じなんですか」と結先生。 「うん、そうだよ。ただ月の名前はフランス革命暦をアレンジしたものにしてあるんだ けどね」 「アルセ・マジョリスの自転周期や公転周期は地球とまったく同じなんですか」 「かなり近いけど、微妙に違うよ」 「いいんでしようか、そんなことで。私がこのあいだ読んだSFでは1年が500日の 惑星がありましたよ。そんな惑星でも年齢だけは地球と同じ8760時間でカウントし てましたけど」 「ややこしそうだねそれって。……まあこっちの世界の歴史は結構悲惨だと思ってた けど、ウイルスにやられるよりは遙かにましだね」とラピスはつぶやいた。 「恒星間移民船、冷凍睡眠、しかも光速に近い通信とエンジン、私たちの22世紀には まだないものばかりです。すごいです」と結先生。 「いくらすごくても意味がないんだけどね」 「そうですか」 「あまりにもチキュウは遠いから通信すらしたことがないんです。なにしろ片道45年 つまり通信が往復するだけで90年かかりますから。たいていの人間はそんなに長く 生きられないからね。それ以前にシンフォニアの人たちはチキュウのことすら知らない しね」 「人類の末裔が地球のことも歴史を知らないだなんて、そんなの悲しすぎます」 「……そこで泣くんですか」とラピス。 「結は、古典、つまり日本の古代文学の教師なの。人類の歴史そのものが秘密にされ てるシンフォニアじゃ存在価値がない職業よね」 「……あっそうか。そうですよね」  それからも3人は延々と話しあった。  幸い、シンフォニア王国の座標はわかっている。前に二人が「事故」でシンフォニア 王国にいった時の座標設定が時空転移装置の履歴に残っているからだ。  ただし、問題なのは肝心の装置は回路がオーバーロードして修理が必要であった。  修理は数日で終わるのでその間こちらの生活を楽しんでください。と結先生。  ラピスはそれを受け入れた。  ●S−2 蓮美台学園、カフェテリア 「いらっしゃいませ」とやってきたウェイトレスは茉理だった。 「何がいいかしら、ラピス」 「メニューはありますか」 「メニューならそこにありますけど」 「……ラピス、日本語は読めるかしら」と恭子先生。 「こんな複雑な文字はさっぱり読めません」 「じゃ私が適当に注文するわ。コーヒー2つと自家製プリン1つ」 「はいかしこまりました」 「なぜプリンを注文したんです」 「ラピス、前にプリン食べてたじゃない」 「確かに食べましたけど」 「あれに比べたらここの自家製プリンのほうがもっとおいしいわよ。ここのプリンは結 も高く評価してるわ」 「そういえば、ユイさんてプリンがすきなんですよね」 「そうよ。私はプリン中毒だって判定したけどね。放っておくとあの子、1日30個く らいは食べかねないの」 「……それはすごいね」 「こんにちは、仁科先生」  プリンを食べていると、ひとりの赤い髪の女性が近づいてきた。 「こんにちは、天ヶ崎」 「もしかして、また結先生のゲストですか」と美琴がラピスにお辞儀する。 「そんなとこ。あの装置が暴走してこっちにきちゃったの。以前私と結先生はこの人に 世話になってるから、ちゃんとお世話しないとね」 「また、あの装置暴走したんですか。困ったもんですねえ。まっわたしはあの装置をつ かって向こうへ行くことはもうたぶんないから別に暴走したっていいですけど」 「……天ヶ崎、あんた完全にこっちの人間になっちゃってるねえ」 「わたしはこの街が、この学園が、この時代が大好きですからっ」 「そうみたいね」 「それじゃわたしはこれで〜」  そう言って美琴は去っていく。 「キョウコ、いまの人ってもしかして装置のこと知ってるんだね。秘密のはずなのに」 「天ヶ崎は、私や結と同じところ(時代)の出身なの」 「とんでもない学園だね、ここは。秘密の装置とか秘密の研究室とかあるし」 「ラピス。そういうあなただって歴史をまるごと秘密にしたりしてるじゃない」 「それは確かにそうだけど」  その夜、ラピスは恭子先生の部屋に泊まることになった。  近代的な生活というのは久しぶりだよとラピスはいったり。  途中、コンビニで買ってきたプリンを食べながら二人のつもる話は続いた。  ●S−3 蓮美台学園、2年B組 「本日は結先生がお休みなので代わりにお客さんとの交流会にします」  本来なら結先生の古典の時間。教室には恭子先生とラピスが教壇にいる。  もちろん結先生は病気でお休みではなく、実は時空転移装置室で修理に励んでいるの だ。もちろん理事長の許可は取ってある。 「というわけで、こちらが……シンフォニア王国、王室……顧問、ラピス・メルクリ ウス・フレイアさんです。見た目は子供に見えるけど結よりも遙かに年上の大人の女性 だから子供扱いしないようにね。私と結が昔世話になった人で今回たまたま来日された ということで蓮美台学園にきてもらいました。じゃ拍手っ」  ぱらぱらと拍手。 「ラピス・メルクリウス・フレイアです。みんなよろしくねっ」  こうしてラピスのささやかな講義が始まった。 「……というわけで、シンフォニア王国はまあ基本的に平和な国なんだよね。王制では あるけど、君臨すれども統治せずっていうところかな」  シンフォニアのことについてたんたんと話すラピス。  もちろんシンフォニアが本当はどこにあるのかいうわけにはいかないので適当にうそ やごまかしを混ぜるしかない。 「シンフォニアのお姫さまってどんな人なんですか」と保奈美が質問する。 「レティはね、明るくて活発でいい子だよね。本名はレティシア・ラ・ミュウ・シンフ ォニアといって……」  レティシアの「転がるりんご亭」における社会勉強について話す。この話はうそをつ く必要はないのでとても話しやすい。 「そのレティシア姫はちょっとお人よしすぎませんか、ラピスさん」 「う〜ん確かにね。でもレティはあれでいいと私は思うから」 「ラピスさんの話を聞く限りでは、シンフォニア王国というのは中世の文化が今も根付 いているようですけど、何か文化的につじつまがあわないところがありますし、それに 食べ物とかもかなり違うような……きのせいでしょうか」と文緒。  実は考古学者志望なので歴史にはやたらと詳しい。 「う〜ん。それはねこの国があまりにも機械がはいりすぎているからじゃないかな。国 によってはいろいろと違いが出てくるもんなんだよ」 「そうでしょうか。なんかおかしいんですよね。わたしはこれでも歴史については詳 しいですけど、シンフォニアのテクノロジーはなんというか複数の時代がごちゃまぜに なってるようなきがするんですけど」 「……そ、それはきのせいじゃないかなあ」  ……ラピスは恭子と共に学園内をあちこち見学したり、蓮美市を観光したり、プリン を食べたりしたり、本屋で本を買ったり、装置室でピアツーと遊んだりした。  ピアツーは、かつて結と恭子がシンフォニアから去るときに結に渡したプレゼント である猫のことで名前は結がつけた。  2070年の生まれのラピスにとって、実はこの時代は遅れた時代にすぎない。  とはいっても、シンフォニアにくらべればテクノロジーはもちろん進んでいる。  久々に機械があふれる社会の便利さを痛感するラピスである。  なかでも久しぶりに使ったネットや電話は実に便利だった。  ラピスが使ったお金は恭子から出ていた。 「いいんですか」 「ここじゃ金貨なんて出したら大騒ぎよ。ここは佐渡や菱刈の金山が近くにあるわけ じゃないからねえ。それにオペレーション・サンクチュアリは元々資金豊富なの。うち の学園なんか建設費何百億円もかかってるわ」  佐渡はもちろん新潟県佐渡市のことである。そして佐渡以上に金が豊富にあるとされ 20世紀後半に発見されたのが鹿児島県菱刈町の菱刈金山である。 「すごい金額ですね。でもそれって桁間違ってませんか」 「間違ってないわ。この世界の国際通貨のドルに対して円のレートは3桁もあるから」 「あの、もしかしてここの円て価値がかなり低いんですか」 「まあね。なにしろ第2次世界大戦でアメリカに負けたから」  戦後のレートは1ドル=360円からスタートしていたのだ。  ●S−4 蓮美台学園、時空転移装置室  あれから5日。ようやく修理が完了した。 「それではお別れです。本当はもっと早く完了すべきだったのに……ごめんなさい」 「ユイががんばっていたのは知ってるよ」とラピス。 「それではなるべくその透明な管にはいってください」  ラピスは中に入る。大きなカバンには蓮美市で買った(英語の)本とプリンが山ほど 入っていた。 「これはガラス……じゃないのかな。もしかして強化プラスティックの一種かな」 「まあそんなことろです。よくわかりましたねえ」 「久住なんかこれのことをガラス管なんていうのよねえ」と恭子先生。 「それじゃ、これでいいかな、ユイ」 「はい。結構です。それでは行きますよ……転移開始です」  結は装置を作動させた。  そして、白い光。  つぎの瞬間にはラピスはいなくなっていた。 「結、ちゃんと戻れたかな」と恭子先生。 「装置は異常ありません。パラメータも範囲内で、エラーもなし。戻れたはずです」 「結。今後はもっともっときをつけてね。他人さまを巻き込むのはまずいから」 「はいっ」                                ------------------- 2004/9/9-2004/9/13           あとがき  「はにはに」「プリホリ」夢の競演です(爆)  ゆけゆけクロスオーバー(ぉ)。  プリンの魔法使いラピスたん、次元スリップです。  ラピス「そのたん禁止っ」  ……きのせいということにしておきましょう^^;;。  このSSは「オーガストファンBOX」内「遙か遠い遠い国の」の続編になります。  というか、元々ラピスたんが蓮美台学園にくるSSを構想してたらファンBOXが 発売になったので、修正したというのが正直なところ。  このSSを書くために「プリホリ」をちゃんとやりました。こんなこともあろうかと 以前買っておいた「ビジュアルファンブック」が役に立ちました(綾爆)  このファンブック、プリホリとバイナリィのキャラが活躍する「オーガスティック・ エトセトラ」がなぜか収録されています。  年代については、完全にネタバレですね。  というわけで、ラピスたんやレティは実は未来人だったんですね^^;  言葉については、ラピスたんは恭子先生たちとなぜか会話はできるけど、日本語は読 めないということにしました。  というか、そもそもシンフォニアの言語って何でしょう。  ふつうに考えると日本語にはならないようなきが……。  あっそうか。「トップをねらえ!」シリーズみたいに、日本が地球統一した世界なの かな。でもそれじゃ地球帝国じゃないと……。  「スタートレック」みたいに自動翻訳機があるのかな(笑)  そもそもシンフォニアの言語って何でしょうねえ。  りんごの木の黒板にあるのは「abc」だし、キャラクターの英語名前からすれば、 やはり英語と考えるべきでしょう。  ちなみにシンフォニアはイタリア語なんだけどね。英語だと「シンフォニック」に なるみたいです。  #そういえば昔「シンフォニック・レイン」というゲームがあったなあ。  クラウドは「雲」、フォートワースはアメリカに「ダラス・フォートワース空港」が ありますし、ハーベストは何だっけ^^;  というわけでシンフォニアに戻ったラピスたんはプリンの魔法使いとしてプリンの 普及に励むのでした。めでたしめでたし…… by BLUESTAR(2004/9/13)