月は東に日は西に - Operation Sanctuary - SS/       「めぞん渋垣」by BLUESTAR  直樹と美琴は蓮美台学園を卒業した。地元の大学に補欠合格した二人である。  美琴は卒業したので蓮華寮を出ることになり、直樹と二人で住むことに決めた。  3月30日、渋垣家。 「というわけで、蓮美駅前不動産がつぶれた。その結果、俺と美琴のアパートの契約も 白紙になっちまった」  直樹、美琴と茉理の3人が話しこんでいた。 「えええっ」と驚く茉理。 「そういうわけで、やっかいなことになってるんだ」 「また新しいアパート探せばいいじゃない」 「時間がない。美琴は明日には寮を出ないといけないんだ」  深刻そうに訴える直樹。 「そっか。美琴さん、もう卒業してるもんね」 「そうなの」と美琴。 「そういうわけで、美琴と話し合った結果、俺と美琴はこの家に住みたいんだがどう かな」 「えええっ。直樹と美琴さんがここに住むのっ」 「そうだ。このままだと美琴がホームレスになっちまうからな」 「……確かにね。直樹は今までだって住んでたから別にかまわないけど。美琴さんも 一緒となると。どうしたものか」  茉理は少しためらってから答えた。 「茉理ちゃん、お願い。わたし、他に頼れるひといないんだよ」 「親類とかそういう人近くにいないの、美琴さん」 「いたら頼まないよ。それに両親はもういないし」 「タルキスタンにいるって聞いてたけど」 「茉理。実は美琴の両親は病気で亡くなっているんだ」と告げる直樹。  確かにそれは事実だった。実は美琴が蓮美台学園にくるはるか前に両親はなくなって いたのだから。 「じゃ、もしかして、美琴さんて、その……天涯孤独なの」 「弟がいるけど、遠いところに住んでいるから」  100年後の日本だから、確かに時間的に遠いところなのである。 「そういうことならしかたないかな。でもあたしじゃ決定できないよ」 「どうして、茉理ちゃん」と首をかしげる美琴。 「この家のことだから、まず両親に聞かないと」 「そっか、それもそうだね」 「問題なのは茉理の両親はいつもいつもいつも帰りが遅いからなあ」  いつもをくどく強調する直樹。 「そうなのよねえ。あの二人のことだから夜中遅くになっちゃうよ。いくら蓮華寮が 門限ないからといってもそんな時間までいるのもあれでしょ」 「それもそうだね。それじゃ、茉理ちゃん、直樹。説明任務はお二人にまかせるから」 「おいおい。といってもこの場合まあしかたないかな」 「そうね」とほほえむ茉理である。  その夜遅く。  かえってきた茉理の両親に対して説明が行われて、あっさり許可が下りた。  その後、茉理の両親がおそるべきニュースを伝えた。  なんと来月から、茉理の両親は、中東の支店に転勤することになったのだ。  出発は4月3日。両親は直樹も出て行くことだし、茉理がひとりぼっちになるのでは と心配していたのだが、直樹・美琴が住むことによってそれは回避される。だから二人 はあっさり許可を出したのだ。  かくして話がついたので、さっそく直樹はその場で自分のケータイで美琴に電話。  直樹は美琴に許可が出たことを話した。次に茉理の母が茉理と直樹をよろしくお願い します、と話したりしたのである。  そして、明日の引っ越しの打ち合わせもした。  美琴がすんでいた蓮華寮はワンルームである。つまり荷物があるといってもすさまじ くあるわけでもない。しかも蓮華寮と渋垣家は距離が近い。  それほど手間はかからないだろうと思われた。  翌日、3月31日。  美琴の引っ越しが行われた。  美琴が現代にきてから約2年。未来から持ち込んだものはほとんどないから、この時 代にきてから買ったものばかりのはずだが、それでもかなりの荷物があった。  部屋わりについては、茉理があっさり決めた。 「直樹と美琴さんは恋人なんだから一部屋で決定」  まあ確かにその通りである。  こうして天ヶ崎美琴の新しい生活が始まったのである。  住所変更にともない色々と手続きが発生した。  未来だったらネットであっさりすむところでも、この時代だとまだまだそうはいかな い。  市役所、携帯電話のキャリア、銀行、郵便局などなど。  もちろん直樹はそれに一緒につきあったが、「引っ越しって面倒くさいんだな」と 思ったものである。  市役所蓮美台支所。 「印鑑曲がって押しちゃったよ。どうしよう」 「きにするな、美琴。こういうものは鮮明に押してあれば大丈夫なはずだ」  携帯電話のショップ、蓮美台店。 「あっ、また新しい機種がでてる。ほしいなあ〜」 「この間買い換えたばかりだろ、美琴」  蓮美銀行蓮美台支店。 「……まだ通帳なんて面倒くさいよ」と小声で美琴。 「向こう(未来)じゃ通帳がないのか」と小声で直樹。 「この時代だってアメリカはもう通帳ないんだよ」  蓮美台郵便局の外。 「1年間もわざわざ新住所に転送してくれるんだ。すごいねえ向こうとは大違いだよ」 「向こうじゃ転送してくれないのか」 「うん。J−ポストはそこまで親切な会社じゃないから」 「J−ポストって何だ」 「民営化した郵便局のことだよ。直樹、知らないの」 「まだ、郵政公社なんだけどなあ」 「あっそっか。J−ポストはユーロポストと並ぶ世界的な物流会社だよ」  4月3日、茉理の両親は蓮美空港から中東へ向かって飛び立った。  茉理、直樹、美琴が空港で見送った。  美琴は空港にくるのは初めてということでわくわくしているようだ。  ところで、蓮美空港は地方のローカル空港にすぎず、中東への直行便は実はない。  茉理の両親は、蓮美〜成田〜中東というルートで現地へと向かった。  さて、美琴の生活はざっとこんな具合だ。  朝、どうにかこうにか直樹を起こす。  朝食のあと、直樹と共に大学に向かう。  二人のとっている科目はかなり重なっている。  同じ学部の同じ学科だから当然なのだが、実のところ意図的に重ねた科目もある。  大学の授業終了後は、バイトへ向かうことが多い。  直樹は近くのコンビニ、スクエアLでバイトをしていることもある。  美琴はというと、なんと蓮美台学園のカフェテリアでバイトしている。天文部は長ら くカフェテリアに常駐していたこともあり、みなカフェテリアのメニューは完璧に覚え ているのだ。もちろん毎日カフェテリアにはいるわけではないのだが。  そして、時は流れる。  翌年の3月。 「というわけで、ちひろとゆかりんがこの家にすむことになりました」  橘ちひろは茉理の親友である。学園付属時代からの友人で、ひとり園芸部員として 知られている。  ゆかりんというのは、広瀬柚香(ひろせ・ゆか)といって、広瀬弘司・元天文部部長の 妹である。直樹が学園2年の時に編入してきた少女である。  柚香は茉理とはなかよしで互いにゆかりん、まつりんとよびあう仲である。 「俺はいいぜ。ちひろちゃんは茉理と違っておとなしいし、柚香は天文部でずっと一緒 だったしな」 「わたしもいいよ」と美琴。 「ちなみにうちの両親の了解は取ってあるからこれは決定事項ということで」 「へいへい」 「これから5人になるんだね。にぎやかになりそうだなあ」 「橘ちひろです。よろしくお願いします」 「広瀬柚香です。これからもよろしく」 「二人とも渋垣家にようこそ。5人とも昔から知り合いだし、今まで通りよろしくね」  と茉理が答える。 「すいません、茉理」 「いいのよ。ちひろがにぎやかなほうがいいっていったんだし」 「まつりん、わたしまでいいんですか」 「いいわよ。どうせなら多いほうがいいじゃない」  ちひろは、直樹と同じ大学の農学部に入学した。  もちろん園芸についてもっとくわしく勉強したいとのこと。  バイトとして、学園の園芸担当の仕事をすることに決まっている。  実は園芸部はちひろの卒業により部員がいなくなった。顧問の仁科先生は多忙。 なにより学園の草花についてちひろが一番詳しいのである。専門の業者に頼むよりは ちひろにやってもらうほうがはるかに安くすみ、費用もおさえられる。  理事会で全員一致であっさりちひろに頼むことに決まったのはそれまでの実績がもの をいったのだろう。  広瀬柚香は、直樹と同じ大学の文学部に入学した。  当初、兄である弘司と同じアパートにすむつもりだったが、運悪く、アパートには空 室がちょうどなかったのである。そんなときに、茉理にその話をしたら、それならよ かったらうちに住まない、といわれたのである。  直樹も美琴は柚香と同じ天文部だからよく知っていたし、ちひろともずっと同じクラ スだったからそれなりに知っている。  というわけであっさりその場でいいよと返事をしてしまったのである。  6月。  老朽化にともないアパートが取り壊されて追い出されたということで、今度はなんと 秋山文緒が渋垣家に住むことになった。ちなみにアパートは駐車場になるとか。 「委員長、久しぶりだな」と直樹。 「久住くん、委員長という呼び方はやめてほしいわね」 「すまん。長年の習慣はそう簡単にはかえられんのだ」 「はいはい。それにしても、この家って、久住くん以外は女の子ばかりよね。これって 考えようによってはハーレムかしらね」 「秋山さんっ、それはないよう」と美琴がつっこむ。 「そうそう。直樹は美琴さんにらぶらぶなんだから、みていて目の毒だし」  お茶を出しながら茉理が言う。 「お茶ありがと。そっか。久住くんには天ヶ崎さんしか目に入らないのね」 「……ま、まあな」 「直樹、何どもってんのよっ」と美琴が叫ぶ。  かくして渋垣家の住人は6人となったのである。 「ねえねえ茉理ちゃん。そういえばさ知人からさマンガを紹介してもらったの」  夜。帰ってきた美琴が話しかけた。 「美琴さん、それなんてマンガなの」 「めぞん一寸(いっすん)。一寸館ていうボロアパートを舞台にしたラブコメ。かなり昔 の人気作品らしいよ」 「へえ。そうなんだ。でラブコメってことは住人たちの話なの」 「それがさ、浪人生と未亡人な管理人さんのラブコメなの」 「うわっ。そうなんだ」 「たくさんの人がいて、アットホームでにぎやかなあたり、この家に似てるなって 思ってね。さしずめ、めぞん渋垣ってとこかな」 「美琴さん。あたしの家はアパートじゃありませんっっ」 −−−−−−−−−−−−−− 2004/8/16−2004/8/19           あとがき  美琴ルートで卒業した直樹と美琴は一緒に住むとかいってます。  その二人がもし渋垣家に住んだらどうなるでしょう(笑)  これはそういうお話です。  銀行の通帳はアメリカにはないらしいです。  毎月銀行のほうから明細が届くようです。  もちろん今の時代なのでネットでも確かめられるみたいですけど。  日本では通帳がデフォルトで、通帳なしが特殊限定サービスな銀行がほとんどです。  日本の銀行が窓口があんなにこむのはやっぱしそのせいだな。  なんとかしてほしいです(苦)。  J−ポストは、最近郵便局がジャパンポストという謎の単語をつかっているので、 それをさらに縮めてみました。  似たような単語には、J−リーグとかいろいろあります。そういえば昔読んだ小説 ではJ−ヴィジョンというテレビ局がありました。確か民営化したNHKだったな。  ユーロポストは、民営化したドイツポストがさらに巨大化したものという設定。  ちなみにドイツポストの前身はドイツの国営の郵便局だったそうな。  蓮美に空港があれば、たぶんローカル空港のはずなのでそういう設定です。  ただねえ、はにはにの場合蓮美市がどこにあるのかよくわかりません。  関東だったら直接成田空港にいくだろうしなあ。  先日新聞で、九州の空港からは欧米への直行便がないというのをみました。九州から だと、九州−伊丹−関空−欧米というルートらしいです。  ……日本の空ってそこまで不自由だったのか。  道理で成田や羽田がめちゃくちゃ混雑するはずです。  というか、いっそのこと九州からアジアの空港を経由したほうが便利そうなきが。  コンビニ。「スクエアL」というのは「スクエアLヨンクス」の一ブランド名です。  モデルにしたコンビニが社名変更する予定なのでそれに併せて「エスアンドワイ」 じゃなくて「スクエアLヨンクス」ということで。近未来ものだとこういうところにき をつかわないといけませんからねえ。  どこがモデルなのかはわかりますよね。  「セブンツースリー」や「ラーソン」じゃないのは、うちの近くにないからです(爆)  柚香は、DC版追加ヒロインです。  まあまつりんとなかよしだったらこういうこともありだろう、と。  「めぞん一寸」については、以前にかいたらぶひなのSSでも使っています。  ねたの使い回しですね(爆)  今の若いひとだと知らない人が多いかもねえ。  「めぞん一刻」は私の年代だとよく知られているんですけどね。 by BLUESTAR(2004/8/19)