「Difference」Story.3 地球人     by BLUESTAR 「名古屋行きセントラルライナー、発車します」  2001年春。岐阜県中津川市、JR中津川駅。  二人は列車に駆け込んだ。ドアが閉まる。3両の電車は西へ向かう。  セントラルライナーは中津川〜名古屋間を走る電車である。  快速よりも早いので新快速といったところだろうか。  ただし本物の新快速と違って区間によっては追加料金が必要というややこしい電車 である。新快速もどきというべきかも知れない。 「・・・間に合ったな」 「間に合いましたね」 「えと・・・黒川さんだっけか」 「はい、黒川梓(くろかわ・あずさ)です」 「こっちの名前は覚えてるかな」 「西野さんですね」 「その通り」  こうして二人は延々と話すことになる。  美乃坂本駅で降りると二人は歩いていく。 「中津東ってどんな高校かな」 「そうですね。長い歴史と伝統がある・・・えーと・・・それだけの学校です」 「それだけって、他にないのかい」 「制服はみての通り地味ですし、ばりばりの進学校ともいえないし」  田舎の県立高校の制服なんてそんなものだ。 「そうかあ」 「あと、甲子園には絶対行かない学校ですから」 「行かないって・・・いけないじゃないのか」 「高校野球連盟に未加盟ですもの」  岐阜県では約60の高校が加盟しているが、中津東はその中には含まれていない。 「え・・・未加盟」 「そうです。硬式野球部のない学校は加盟できませんから」 「本当にないのか」 「ええ。どういうわけかないんです」  浩一は話題を変えることにする。 「・・・学校の歴史っていうとどのくらいかな」 「もうすぐ100周年です」 「100・・・そりゃすごい」 「ただ単に長くやってるだけというきもしますけど」 「あとはそうだな・・・どうして中津川って名前じゃないのかな」 「元々明治時代に中津町立中津高女として設立されて、戦後共学になったんです。 その時はまだ恵那郡中津町だったはずです。中津川市になったのはその後」 「そういうことか。なんだかなあ」  ・・・これが二人の関係の始まりであった。      ☆  5月。  お互いに好きだということを確認して。  そして恋人として付き合いはじめることに決めて。  それから梓はためらった末にこう問いかけた。 「私の父は地球人じゃないんですよ。それでも私を受け入れられますか?」  梓は自分が宇宙人の父と日本人の母との間に生まれたことを説明した。  外見的にも遺伝子的にも地球人とはほとんど違わないことも。  ただし地球人と違って心臓が2つあることも。  浩一は少し間をおいて、それから答えた。 「もちろん」      ☆ 「いよいよ、センター試験だな」  2002年1月。いよいよ大学入試センター試験。 「ええ。泊まり込みになるけど、私がいないからって浮気しないように」 「了解了解。それにしても・・・飛騨が泊まり込みなのは知ってたけど、ここも泊ま り込みとはな」 「毎年テレビニュースでやるもんねえ。みんなで特急に乗る場面」  高山駅でセンター試験を受ける受験生が集団で特急に乗り込む姿は、冬の風物詩と なっていた。 「やっぱし岐阜県は広いんだなあ」 「試験会場が岐阜市だけだからねえ」 「このへんにもあるといいのにな」 「しょうがないわ。センター試験泊まり込みは田舎の人間の宿命なんだし」 「そんなにおおげさなものかな」 「・・・おおげさなものよ。たぶんね」 「・・・まあ・・・そのがんばれよ」 「言われなくてもがんばるつもり」  岐阜県の大学入試センター試験の会場は岐阜市だけ。だから遠い東濃・飛騨の受験 生はホテルに泊まり込むことになる。  共通一次試験開始以来、ずっとこういう状態であった。  もちろん先生たちはなんとかならないかと要望したが、世紀を越えてもまったく 変わらなかった。岐阜県は保守的なところなのでしかたないのかも知れない。  ・・・ところがこの翌年から、センター試験の会場が増えた。  東濃・飛騨にもやっと会場ができた。  そのうちのひとつは浩一の通う中津川大学だった。  こうして岐阜県の「センター試験泊まり込み」は歴史の1ページになった。  のちに浩一はこんな言葉を発している。  "うちの大学がもっと早くセンター試験に参加していればよかったんだ"  梓はというと、  "たった1年。たった1年。たった1年。・・・とっても悔しいわっ"      ☆  中津川駅から名古屋行きの電車に乗る。  終点名古屋のひとつ手前の金山駅で降りる。  金山駅からは名鉄のセントレア特急に乗る。終点は空港。  中津川からは鉄道で約1時間40分〜2時間。  JRの運賃(中津川−金山)、名鉄の運賃(金山−中部国際空港)、セントレア特急 のミューチケット(特別車両券。名鉄全線で均一料金。特急券ではない)の合計金額 は約2500円である。  セントレア(中部国際空港)は中津川からはちょっと遠かった。  中津川からセントレアに乗り換えなしでいける電車は地球には存在しない。  セントレアに乗り入れているのは名鉄「だけ」だから。  2006年3月。二人は空港にやってきた。 「セントレアに来るのは初めてだけど・・・ここ遠いなあ」 「私も同感。しかも直通電車がないし。こんなことならJRも乗り入れれば」 「なにを今さら」 「確かにそうだけどね」  セントレア(CENTRAIR)は中部国際空港(CENTRal japan international AIRport)の 愛称で、空港会社が決めたものである。中部(CENTRal)と空港(AIRport)を組み合わせ たものだ。  セントレアは愛知県常滑(とこなめ)市にある。知多半島の西に位置し、名古屋から 少し離れている。  セントレアは予定より早く2005年2月開港。関西国際空港と同じく海を埋め立 てて作った空港である。名古屋空港よりも滑走路は長くなり3500メートル。  空港アクセス鉄道は、名鉄だけ。名鉄名古屋駅から特急28分だから成田国際空港 よりははるかにましといえる。  名鉄名古屋駅は、JR名古屋駅に隣接しているというよりは一体化しているという べきだろうか。ただし、JR名古屋駅のプラットホームは1〜19番線まであるが、 名鉄名古屋駅は1〜4番線までしかない。しかも線路は実は2本しかない。つまり、 1番線・線路・23番線・線路・4番線なのである。名鉄名古屋駅は名鉄の路線網で はほぼ中心にあるため、ほとんどの電車がここを通る。混雑は激しく分きざみで発着 がある。しかもセントレア特急以外のほとんどの電車が赤一色なので素人には行き先 の区別が困難である。セントレア開港に合わせて新名古屋駅から改名したのだが、ま だまだ新名古屋駅といわれることが多い。  愛知県内を東西に貫くJR東海道本線と名鉄名古屋本線はほぼ平行して走っている からさぞ競争があるように思えるが実はそうでもない。  名古屋−岐阜は、JRのほうが名鉄より安くて早いのだ。ただセントレアに乗り入 れているのは名鉄だけなので、岐阜市からセントレアにいく時には名鉄セントレア特 急のほうが便利である。  関西国際空港は、華々しく開港した。  なにしろ24時間空港の関空より夜9時までしか使えない伊丹空港のほうが利用客 が多いのだ。これでは何のために作ったのか疑問視ぜざるを得ない。国内線をなまじ 伊丹に残したのがいけなかったのだろうか。  関空は着陸料の高さもハンバーガーの値段の高さも世界一という恐るべき空港だ。  いくら立派な滑走路があってもこれでは・・・。  セントレアはこうならないように努力しているようである。とはいえ、名古屋空港 に小型機は残しているのだが。  ざわめきの中にアナウンスが聞こえる。 「・・・アナウンスがあったし、行きましょうか」 「ああ」  二人は荷物を持って、移動する。 「宇宙船だったらロサンジェルスなんてすぐなのにねえ」 「それはいわない約束だよ。一応これは新婚旅行だからね」 「そうね」  二人は確かにロサンジェルスに向かうのだが実は通過するだけで最終目的地は、宇 宙人連絡会本部なのである。  実は地球には宇宙人が結構住んでいてそれらの人々の互助組織があったのだ。  二人を乗せた飛行機は離陸する。  空はとっても青かった。 --------------------- 2003/11/12-2003/11/13