「Difference」Story.4 羽根の少女     by BLUESTAR 「あなたとは違う存在なんですよ。それでも好きっていってくれるとうれしいな」  瀬田ももの(せた・ももの)はそう言った。 「違う存在ってどういうことかな」 「あのね、浩一さん。私は・・・その・・・」  もものは少し後ろに下がった。そして。音がした。 「・・・それは・・・まさか羽根か、本当に羽根なのか」 「見てのとおり、羽根よ」 「・・・遺伝子障害か?」  ゲームで黒い羽根を持った歌手が出てくるのがあったなと思い、聞いてみる。 「私の場合、むしろ羽根のないほうが遺伝子障害だと思うわ。ママは天使だから」 「天使っていうと、いわゆる。あの天使か」 「まっそんなとこ。ただし私はハーフだから」 「ハーフってことは・・・父親は人間なわけか」 「まあね。父さんは写真家で、仕事と称して世界中うろついてるわ。おかげで たまにしか会えないのが残念。今はオーストラリアだって」 「なんか、すごい秘密を聞いちまったなあ」 「あっえーと、そういうわけで、それでも私のことが好きですか、浩一さん」  ぐっと近寄ってくるももの。 「・・・ああ。好きだ。これでいいのかな」 「それでいいのよ。いいのいいの。それから私の正体はもちろん秘密」 「さしずめ最高機密ってとこかな」 「まあね。そんなところ」  2001年6月。梅雨の間の晴れ間の日のことだった。  というわけで、西野浩一と瀬田もものは付き合いはじめた。  瀬田もものは、メゾン・ブルーベリー108号室に父親と二人で住んでいる。  ただし父親はたまにしか帰ってこないので「ほとんど一人暮らしモード」という ことらしい。  中津東高校の3年で受験生。201号室に住む黒川梓とはクラスメートで、友人 である。実は梓も秘密があるのだがもものはまだそれを知らない。  もものは髪の色がピンクである。染めているわけではなく、元々こういう色だ。  母親も同じ色なので、どうみても遺伝である。日本ではピンク色の髪というのは 珍しいからどうしても目立つのは避けられない。  ところでもものの趣味はカメラである。父親の仕事柄、昔から家の中にカメラだけ はたくさん転がっていたので、自然と興味を抱いたのだ。  そんなわけで今では、2台のコンパクトカメラと2台のデジタルカメラを使ってい るという。最近はカジオの薄いデジカメ「EXIVIEW」(エクシヴュー)がお気に入りで 毎日持ち歩いているとか。  夏、秋、冬。季節は過ぎていく。  冬。年末。デートの帰りに、メゾン・ブルーベリーの前まできたところで、異変が 起きた。周囲の風景が急に灰色になってしまったのだ。 「閉鎖空間グレイ・フィールドへようこそ、マリッジピーチ。さあマリッジピーチ、 ここからは逃げられんぞ。おとなしくライト・サムシング・フォーを渡してくれたま え」  二人の前に、変な格好をした青年が立っていた。 「ももの。マリッジピーチって誰のことかな。少なくとも僕は違うぞ」 「私も知らないわ。人違いよ、人違い」 「とぼけるな、マリッジピーチ。とっとと変身したまえ」 「・・・人違いです」 「変身しないと、あの建物をバズーカでふっ飛ばすがいいのかな」 「だめだめだめーっ。そんなことしたら私ホームレスになっちゃうわよ」 「あそこに住んでいるのか。よし。そうとわかれば・・・」 「マリッジ・ビューティフル・フローレ〜」  白く輝く光に包まれてもものが変身した。 「マリッジピーチ、不本意ながら〜メイクアップ」 「・・・また変なアニメみてただろう」 「おだまり。さあ相手したげるわよ」  青年は後ろを向いた。 「マジカル・バズーカ、セットアップ。ターゲット・ロックオン。ファイエル」  なぜか最後のファイエルだけドイツ語だった。銀河三国伝説というアニメの見過ぎ だろう。 「やめて〜」  突然、メゾン・ブルーベリーが白く光った。  そしてバズーカから放たれた黒い波みたいものは、なぜか建物に届かなかった。 「あれはディメンション・フィールドっ。なぜだぁぁぁっ」 「トミー。久しぶりね」  メゾン・ブルーベリーから出てきたのは、大家兼管理人の九条秋奈だった。 「アキナっ。なぜここにいるんだっ。ここは閉鎖空間だぞっ」 「私の所有するアパートをよくも閉じ込めてくれたわねっ」 「・・・そんな・・・まさか・・・そんな」 「WDO本部には連絡したわ。A級次元犯罪者、トミー・マリゴールド・パープルス ター。今度こそお縄につきなさいっ」  WDO。Worlds Dimension Organization。世界次元機関。平行世界間の連絡・警察 ・管理を目的とした組織だ。秋奈はそこと関係があるようだ。  秋奈とトミーはにらみ合う。 「あの二人すごいオーラねえ。あれじゃうかつに割り込めないわ」  空中に浮かんだもものがつぶやく。 「そんなにすごいのかい」 「それはもう」 「・・・かつては愛しあった二人が闘うというのは愚かなことだ」  とトミー。 「今さら何をいうのよっ」 「ダイヤモンド・カッター・フェノメノン」  いきなり刀で切りかかるトミー。  秋奈は持っていた盾でそれを防ぐと、なんと刀が折れてしまった。 「ダイヤモンドは地球で一番固いはずなのに・・・そんなばかな・・・」 「プラスバティオンは、ダイヤモンドより固いのよ。あなたの行動パターンは お見通しよっ」  アパートの後ろから黒川梓がやってきた。 「ダイヤモンドってあんなにもろいのものなのね。初めて知ったわ」 「ありがとうね、梓さん」 「どうも。というわけで宇宙は広いのよっ」 「う・・・うちゅうだと・・・」  秋奈に向かってビームが放たれた。  青白い色がついていてよく見えた。・・・変なビームだ。  だが秋奈の前に何かがあらわれてさえぎった。 「秋奈さん。大丈夫ですか」  彼女はビームが心臓に当たったのに平然と会話している。 「私は大丈夫。マリーナはどうかしら」 「こちらも大丈夫です。そもそも私は人間じゃありませんから」 「そうだったわね」 「後でメンテナンス・プログラムを走らせないと」 「こらっデイヴ。邪魔するんじゃないっ」  空中に向かって大声のトミー。 「アイムソーリー。チャンスだと思っただけだ」 「失敗したくせにっ」 「この世界にアンドロイドがいるなんて予想外だ」 「それもそうだな・・・じゃあどうする」  びーびーびー。トミーの服の中からアラームが鳴る。 「・・・時間切れのようだ。戦略的移動だっ」 「イエス・イエス・イエス。せーのっ転送スタンバイっ」  そこートミーの近くにもものが飛んできた。 「・・・サンクト・マリアージュ・カタルシス・・・」 「やめろ、やめるんだ、ピーチ」  そこへ世界全体がまぶしく光った。  ピーチもまぶしさに顔をしかめ、セリフを止めた。 「WDOです。強制介入です。・・・大丈夫ですか」  6人の同じ制服をきた集団がいきなり出現した。 「WDOの九条秋奈です。とりあえず大丈夫です」 「すいません。確認していいですか」 「どうぞ。九条−パープルスター・秋奈。WDO1級エージェント。認識番号ASR 335−20007」 「確認。・・・久しぶりね、伝説のエージェント秋奈」 「人を勝手に伝説にしないでほしいわね。ところでトミーとデイヴは追いかけなくて いいのかしら」 「仲間が非常線張ってるよわよ。・・・でもあいつら優秀な悪人だから」 「そんなことじゃ困るわね」 「努力はしてますけど。・・・あなたが現場に復帰してくれればねえ・・・」 「それはいわない約束でしょ、エリィ」 「はいはい。ところであなたのアパートの住人ていったいどういう人たちなんすか」 「あなたには関係ないことです」 「・・・それもそうね」  もものがぱたぱたと飛んでくる。 「このひとたち、いったいなんなんですか」 「WDO。世界次元機関。平行世界の警察みたいなものよ」と秋奈。 「・・・そんな組織があるなんて初耳ですけど」 「ライゼルの馬鹿にあとでクレームかしら。・・・もものさんはエンジェリック・ アクアの近衛警備隊大尉でしょ」  ライゼルというのはもものの上司で警備隊大佐である。 「どどどどうしてそれを・・・」 「この地球はWDO未加盟だけど、エンジェリック・アクアは加盟してるんだから 知らなきゃまずいわよ」 「・・・まずいわよっていわれても・・・」 「もものさん。名前と階級と認識番号」 「あっっはい。瀬田ももの/マリッジピーチ、エンジェリック・アクア近衛警備 隊大尉、認識番号CCR1701−8585」 「本人と確認・・・って1級エージェント相当って・・・うあ」そういってエリィ はいきなり敬礼した。 「私、敬礼されるほどすごいんですか」 「エンジェリック・アクアの近衛警備隊って訓練厳しいし。それに特殊な力を使い こなすには体力と精神力がいるもの」と秋奈。  そこへようやく浩一がたどりつく。 「あの・・・何がなんだかよくわからないんですけど、説明してもらえますか」 「いいわ。ただしその前にこの閉鎖空間を片づけてからね。エリィ、とっとと片づけ てね」  にっこりとする秋奈。  エリィが閉鎖空間を片づけると、メゾン・ブルーベリーは元に戻った。  周囲の空間はいつも通りだった。  そこへ、秋奈の娘、九条鮎奈が帰宅してきた。  101号室で説明会が始まった。  九条秋奈は、WDOのエージェントが本業であり、アパート経営は実は副業。  かつてはトミーと結婚したのだがその後いろいろあって別れたのである。  そして鮎奈は二人の娘である。鮎奈はこういったことは知っていた。  マリーナは別の平行世界出身のアンドロイドである。  次元嵐のため元の世界に戻れないため、WDO本部のレストランでたまたま 仲良くなった秋奈のアパートに住んでいるという。  黒川梓は地球人と宇宙人のハーフ。  外見的にも遺伝子的にも地球人とはほとんど違いはない。  ただし、梓の体には心臓が2つある。  瀬田もものは地球人と天使のハーフ。  ちなみに天使というのは「本来地球人より高度な文明を持ち、地球人とは違う 異空間にすみ特殊な能力をもつ種族」だという秋奈。  ただし遺伝子的には地球人とそれほど大きな違いはないとのこと。  だから特殊な装置や遺伝子操作なしにももののようなハーフが生まれること もあるとのこと。  エリィは最後にこうまとめた「要するに、地球人と天使っていうのは実は種族的 にはそれほど違わない存在ということ」  浩一は「・・・それほど違わないって・・・それでいいのかなあ」  エリィは「まったく違うかけはなれた種族だったらそもそも子供なんかつくれな いわよ」  ・・・説明会の内容はもちろん絶対秘密ということで全員合意した。 「あの秋奈さん。このアパートってふつうのひとはもしかしていないんじゃないで すか」 「そんなことないわ。あなたはふつうのひとよ、浩一さん」 「・・・他の人は・・・もしかして・・・みんなみんな・・・」 「ノーコメントです」  ・・・にっこり微笑む秋奈であった。  2005年。岐阜県東濃(とうのう)市、東濃プレシャス・アウトレット。  東濃プレシャス・アウトレットは今年できたばかりである。岐阜県東部初のアウト レットモールである。岐阜県西部にはすでに本巣市にリバーランドモールが存在して いるから岐阜県初とはいえないのだ。  広大な敷地に平屋建ての店がたくさん並んでいる。  洋服とか靴とか寿司屋とかいろいろと並んでいるが、さすがにパソコンショップ やアニメショップはないようだ。  東海環状自動車道の土岐南ICのそばにあるこのモールはたくさんの客がひしめて いるのだった。  中央自動車道の中津川ICからだとこのモールまでは車で約30分である。  中津川IC(中津川市)、恵那IC(恵那市)、瑞浪IC(東濃市)、土岐IC(東濃市)、 ときて土岐JCTから東海環状道に入るとすぐに土岐南ICである。  岐阜県東濃市は、2005年の合併で誕生した新しい市である。人口約22万の 特例市で、その人口は岐阜県21市町村中3位である。名古屋の通勤圏であり、 住民の視線は名古屋をむきがちである。美濃焼と呼ばれる焼き物の産地であるが、 すぐそばに瀬戸市というあまりにも有名なところがあるので知名度はいまひとつ である。市の東部には、岐阜県の高校で史上初めて明治神宮野球大会で日本一になっ た中日本(なかにほん)高校がある。愛知県の中日本大中日本高校とは姉妹校である。  市の中南部は「ブリュンヒルト」という異世界ファンタジーマンガの舞台である。 「お買い物は楽しいなっと」 「ももの・・・まだ買う気かい」  浩一は両手いっぱいに荷物を抱えている。 「もちろん」 「ここはなんでこんなにでかいんだよお」 「狭いアウトレットモールなんてごめんだわ」  そういって、もものはまた別の店に入っていくのであった。 --------------------- 2003/11/19-2003/11/26