さゆりなパラレル     World 2 ユナイテッド・ノースアメリカ      Written by BLUESTAR(JCH03712@nifty.ne.jp)  ●KS-88世界(ワールド)、ユナイテッド・ノースアメリカ、ジャパン州ナゴヤ、   西暦2000年11月  岡崎さゆりはいわゆる「平行世界放浪少女」である。いろんな世界をふらふらと漂 流し始めてからそろそろ7ヶ月。最近ではそんな異常な状況になんだか慣れてきたよ うな気さえしている今日このごろであった。  WDO(Worlds Dimention Organization;世界次元機構)はたくさんの平行世界にまたが る管理組織である。次元間の交通・警察・調整などを行っている。新城(しんじょう) はWDOの「岡崎さゆり担当専任連絡員」であった。次から次へとでたらめに別の平行 世界へすっとんで行く岡崎さゆりに最初に出会ったWDOの職員だったから。  廃工場らしきところに連れてこられたさゆりは、会議室でさっそく質問をされるこ ととになった。さゆりの荷物は会議室にいた白衣の男が取り上げている。 「あなたの名前は」  20歳くらいの赤毛のショートカットの女性が拳銃を突きつけながら、「英語」で 質問した。  さゆりも相手にあわせて英語で答える。さゆりは結構英語が使えるのだ。 「岡崎さゆり」 「住所」 「愛知県名古屋市名北(めいほく)区豊山(とよやま)町豊南(とよなみ)3丁目11-201」  さゆりの部屋はアパートの2階である。名古屋空港のそばだ。 「電話番号」 「252−919−4728」 「社会保証番号」 「ないわ」 「職業」 「学生。名北情報大学情報学部1年」  女はため息をついた。 「ドクター。こいつはスパイかなにかでしょうか」 「スパイだとしたら間抜けすぎるな。ただうそつきなのは確かだ。ナゴヤに名北区な んぞないし、名北情報大学というのもないからな」 「どうしますか、ドクター」 「とりあえず荷物を調べてみよう」  そういってドクターはカバンの中の荷物を調べはじめた。 「・・・これはすごい。日本語が使えて、高速で小さくてカラーとは・・・いったい どこでこんなものを調達したんだね」  ドクターが動かしているのは、京芝(きょうしば)のミニノートパソコン、リーブラ 20だった。  もっとも某平行世界で大幅に改造されパワーアップしたので元のリーブラ20とは 全然違うスペックと耐久性になっていたが。 「友人から安く譲ってもらったんです。私のいた世界では、パソコンショップで買え ましたけど」 「・・・その世界というのはこことは違う可能性世界かね」 「ええ。ここと違って日本人がみんな日本語をしゃべる世界ですよ」 「あんたの世界の日本は第2次大戦に勝利でもしたのかね」 「いいえ。1945年に敗戦。その後占領、やがてサンフランシスコ条約で独立国に 戻りました。もっとも国名は大日本帝国ではなく日本国になり、天皇陛下は象徴にな りました」 「・・・できればそっちの世界に生まれたかったのう。そうすればレジスタンスなん ぞやらずにすんだんだが・・・。リサ、この人はスパイではないようだ」 「ドクターはこんな得体の知れない女を信じるんですか」 「我々だって得体の知れないレジスタンスだろうが。・・・この世界には日本語の使 えるパソコンはないはずだ。なのにこのミス・オカザキはそれを持っている。・・・ ゲストとして迎えんかね」 「もし、こいつがなにかしたらどうするつもり」 「わしが責任を取る。それでどうかな」 「わかったわ」  さゆりは捕虜から一転してゲストとして迎えられた。  女は、レジスタンス組織クロネコの79支部サブ・リーダー、リサ・イブキ。  ドクターは、クロネコの79支部リーダー、カズキ・ウィルフレッド。レジスタン ス活動に身を投じるまでは本物の医者だったという。 「今でも本物の医者じゃよ。連合の医務機構はいまだにわしの免許を取り消しておら んからな」  かくして、3人で深夜まで延々と話が飛び交うこととなった・・・  ・・・さゆりのホームワールドとこの世界の歴史の分岐点は、1951年のサンフ ランシスコ条約のようだった。さゆりの世界ではここで日本は独立国に戻るが、この 世界では、逆にアメリカ合衆国に併合されてしまったのである。  併合と同時に日本はジャパン・テリトリー(準州)となった。面積はカリフォルニア より小さいが、なにしろ約1億もの人口でありやむなくそうしたのである。  1980年にカナダと合併して、国名をユナイテッド・ノースアメリカに変更した。  この併合は経済力と軍事力によってアメリカ主導で行われたこともあり、新しい首 都はやっぱりワシントンDCだった。  1990年にジャパンは正式な州に昇格した。この頃にはジャパンの人々もかなり の経済力をつけていたのである。  併合からほぼ半世紀。いまやジャパン州の人々は「ジャパン系アメリカ人」であっ た。  街にはフォードやGMやクライスラーの車が走っている。物は豊富であふれている。  マクレナードやクィーンバーガーの店もありふれている。パソコンはIBN、DOMPAQ、 FELL・・・。ジャパン州の人々はいまや英語を書き、話し、使いこなしている。  だが、ジャパン州はもともとアメリカではなかったのだ。 「私のいた日本国もかなりアメリカナイズされた国だけど、ここに比べればまだまだ」 「そうかね」 「ええ。ここじゃ若い人は英語しかしゃべれないなんて・・・それじゃ日本人とはい えないんじゃない」 「そうだろうな。わしらの世代はなんとか日本語も使える。だがリサの世代は学校で は英語しか学ばん。いまや州立トウキョウ大学の日本文学部にいかないと学べんそう じゃ」 「・・・それってなんかヘン」 「かもしれんな。だがいまのこのジャパンではそれが現実なんじゃよ・・・」  レジスタンス組織は大きなものだけでも5つあった。クロネコは規模からいえば ナンバー2である。クロネコはじめ多くのレジスタンス組織の最終目的は、「日本の 独立」だった。もちろん独立して以前の軍部が支配する大日本帝国に戻す、のではな い。アメリカのような自由民主主義国家をつくるということであった。 「レジスタンスが目指すのは、日本連邦国の設立ね。ただ道のりは遠そうだけど」  とリサがため息まじりに言った。 「・・・確かにそうかもね」 「まあ、いざとなったら、第2次市民戦争になるかもしれんな」とドクター。  市民戦争(The Civil War)は、1860年代に合衆国と独立した南部との戦いであった。  そして南部は敗北して合衆国に引き戻された。  こんどは、アメリカ大陸本土と日本列島の戦いというわけだ。  新城くんがこないまま時は過ぎていった・・・。すでに一週間が過ぎた。 「・・・食堂でみんなテレビみてましたけど、すごい盛り上がりですね」とさゆり。 「ふむ。まあそうじゃろうなあ。アメリカ初のジャパニーズ・プレジデントが誕生す るかもしれんからの」とウィルフレッド。 「そっか。大統領選挙ね」 「うむ。5年に一度の大統領選挙。しかも今回は自由連邦党のマクブライアンと、 革新党のロチェスキーと、太平洋党のモリモトの3つ巴の戦いじゃよ」 「・・・私の世界では4年に一度でしたよ。しかも政党の名前も全部違ってますね」 「ほうそうかね。そっちだとどんな政党だったかね」 「民主党、共和党、改革党・・・だったかな」 「なるほど。微妙に違うわけだな」 「ええまあ・・・それにしてもモリモトって人はアメリカ・・・本土の人ですか」 「いやいや。れっきとしたヨコハマ出身の日本人じゃよ。ジャパン州の上院議員を3 期つとめた。なかなかのやり手でな。いまや上院は太平洋党が最大勢力じゃよ」 「へえ。それはすごいですね」 「最終結果です。モリモトが36.5パーセント。マクブライアンが35.8パーセント。 そしてロチェスキーが21.7パーセント。ユナイテッド・ノースアメリカ次期大統領 はケンジ・モリモトに決定しました」  テレビからはたんたんと結果が流れた。 「やったな」 「ついにやったぜ」 「いよいよ思えば長かった・・・」  と食堂ではさまざまな声がした。  翌日。 「新聞がたくさんあるのはいいけど・・・全部英字紙なのね」 「しかたあるまい。悲しい事にここはアメリカなんだからの」とウィルフレッド。  トウキョウ・タイムズ、サンライズ、エブリデイ、セントラルジャパン・・・  どの新聞もトップに次期大統領のことをもってきていた。 「まあこれでこの国も少しはかわるじゃろうて」 「そうかなあ。それほど単純だといいけどね」 「さめた見方じゃな」 「あちこち世界をめぐって・・・世の中って複雑だってよくわかるから」  その翌日。  大統領が暗殺された。修正憲法214条により、次期大統領モリモトが繰り上げ就 任することとなった。そしてその次の日、上下両院合同議会が開催された。  もちろんそれはユナイテッド・ノースアメリカ第54代大統領(注・アメリカ合衆国 時代からの通算で計算している)のケンジ・モリモトの演説で始まった・・・ 「・・・というわけで。これからは連合のより一層の発展を目指す所存であります」  すでに演説開始から25分が過ぎていた。新大統領の就任記念演説ということもあ り、ユナイテッド・ノースアメリカのテレビ局のみならず世界各地でも生中継され ていた。さゆりたちももちろんそれをみていた。 「まず、今後の課題としては肥大して腐敗したこの国の再編が必要であります。 そこで修正憲法215条に基づき私はユナイテッド・ノースアメリカ全土に戒厳令を 布告します」  会場は静まり返った。 「これにより連合の大統領には強大な権限と権力が与えられます。次に修正憲法21 6条に基づき、たった今、ユナイテッド・ノースアメリカを解散します」  ここで会場が真っ暗になった。後年あきらかになるが停電ではなく、意図的に照明 が切られたのであった。  すぐに照明は回復した。だが1分にも満たないあいだに大統領はいなくなっていた のであった。そして会場には怒りと悔しさの声が満ちていった。 「とんでもない展開ね〜」  テレビをみていたさゆりはあっけに取られていた、 「そうね」 「そうねって・・・リサ、あんた驚いてないじゃない」 「一応知ってたから」 「・・・こんなとんてせもない事を事前に知ってたっていうの」 「ええまあ。モリモトはね、クロネコのシャドウ・リーダーなの」 「・・・そんなのが表の世界で堂々と活躍するとはねえ〜」 「ここまでくるのに20年かかったそうよ。老人の執念てすごいわよ」  そこへ。ウィルフレッドがやってきた。 「どうだったね。モリモトの演説は」 「とんでもなかったわよ」 「だろうな」 「そもそもレジスタンスの人間が堂々と大統領になるなんて・・・」 「意表はついてるじゃろ」 「まあね」 「お待たせしました、さゆりさん」  やっと新城くんが現れた。さゆりの顔がぱっと明るくなった。 「遅かったわねえ。今日あたり転移なんだけど。何してたのよ。私はずっとここに いたのに」 「すみません。次元嵐を迂回してたら遅くなっちゃって」 「まあ・・・それならしょうがないわね」 「とりあえずここから出たいんですけど・・・」 「ここはレジスタンスのアジトよ。簡単に出してくれると思うの」 「・・・どうでしょうか、ミス・イブキ」 「ノー」 「・・・やっぱし」 「ところで新城くん。あの解散って有効なの」とさゆり。 「ここの世界にある分室の皆さんのあいだでも意見が分かれていますね。最高権力者 が国を解散なんて前例がないですから。ただ・・・あの演説の結果実際に、ジャパ ン、ブリティッシュ・コロンビア、ワシントン、カリフォルニア、ケベック、なんか は独立宣言を出してますから。とりあえず知事なんかが集まって、明日会談の予定み たいですけど、一歩間違えば第2次市民戦争になるでしょうね」 「そうならないといいのにね」 「そうですね」 ------------------- 2000/5/4-2000/6/5