さゆりなパラレル     World 3 大宇宙港      Written by BLUESTAR(JCH03712@nifty.ne.jp)  ●KP-58世界(ワールド)、地球連邦、地球、日本州、名古屋市、   名古屋星際宇宙港(Nagoya Intersteller Spaceport)、西暦2001年4月 「アイスコーヒー2つお待たせしました」  さゆりは盆からグラスを2つおいた。 「ありがとさん」  さゆりはテーブルの上にレシートをおいた。 「ひまねえ」  とつぶやいたのは中沢舞。この喫茶店「レイク・タウン」の雇われマスターである。 「外はひどい天気ですから・・・」  さゆりの姿はまるでウェイトレスみたいだった。・・・いや実際ウェイトレスみた いだ。さゆりはここにきてすぐに舞と出会い、舞の店で働いているのだった。  岡崎さゆりはいわゆる「平行世界放浪少女」である。いろんな世界をふらふらと漂 流し始めてからそろそろ1年。最近ではそんな異常な状況になんだか慣れてきたよ うな気さえしている今日このごろであった。  WDO(Worlds Dimention Organization;世界次元機構)はたくさんの平行世界にまたが る管理組織である。次元間の交通・警察・調整などを行っている。新城(しんじょう) はWDOの「岡崎さゆり担当専任連絡員」であった。次から次へとでたらめに別の平行 世界へすっとんで行く岡崎さゆりに最初に出会ったWDOの職員だったから。 「それにしても・・・宇宙にはいろんな人がいるなあと思いますけど」とさゆり。 「そうねえ。この空港の中だけでもいろんな人がいるでしょ。地球人、エバリット人、 ホルロレット人にパラ・ゴレシア人とか・・・」と舞。 「ええ。最初はびっくりしましたけど」 「まあ無理もないわね。あなたの故郷じゃ異星人とのファースト・コンタクトがまだ なんだし」 「ここにくらべて宇宙開発が遅れてますから・・・」 「でもそっちの世界じゃマルドレガス事故はなかったんでしょ」 「ええ」 「こっちじゃ事故のせいで名古屋が消滅しちゃったから」  さゆりはすでにそのあたりのことも聞いていたし、ホロディスクやエレブックや テラネットでみたりもしていた・・・  西暦1845年。アメリカ連合国のカリフォルニアにエバリット人の宇宙船、マリリト ・エングレスが不時着した。ピダーモイマ・ル・バラセト船長は修理のために上陸し、 これが地球人とエバリット人のファースト・コンタクトとなった。  市民戦争(1861)はエバリット人のオーバー・テクノロジーを手にしたアメリカ連合 国軍(北軍)があっさりと勝利した。以後アメリカは宇宙進出を本格的にめざすことに なる。  1881年。アメリカの提唱により地球連邦が誕生した。エバリット人のテクノロジー を手にしたアメリカのいうことに多くの国は渋々従わざるを得なかった。  1904年、ロシア帝国とパラ・ゴレシア人が手を組み連邦に戦争をしかけた。 短いが激しい戦いの末、地球連邦が勝利をおさめ、ロシア帝国は解体され、地球連邦 ロシア州となった。これをみて、それまで態度をはっきりさせていなかった日本、オ ーストラリア、フランスなどが地球連邦に加わったのである。  やがて1935年には地球上の全国家が地球連邦に加盟し、地球はついに惑星統一国家 となり、銀河連絡機構に加盟を申請した。  地球連邦は100以上の州からなり、英語とフランス語が連邦公用語に定められた。  ただし、州の政治については各州の独自性にまかせたから、州代表は王だったり、 首相だったり、大統領だったり、総統だったり、事務長だったりするが。  地球人は太陽系をどんどん開発していった。だが地球があいかわらず政治・経済の 中心であり続けた。  1975年。エバリット船籍の宇宙船マルドレガスが磁気嵐によるエンジントラブルで 墜落した。墜落した場所は、日本州名古屋市の名古屋城付近。爆発により、名古屋市 はそのほとんどが消滅してしまった・・・。推定死者約120万人。地球史上最大・最悪 の事故であった。  1980年。時の日本州首相は消滅した名古屋に巨大な宇宙港の建設を提唱した。  アジアには連邦A級宇宙港がまだひとつもなく、複数の州が建設を計画していた。  「弔い」と「利便性」をかかげ、建設運動はひろまっていったのである。  81年に日本州の州民投票が行われて、投票者の51.1パーセントの賛成が集まる。  そしてニューヨークにある地球連邦本部において名古屋宇宙港の建設が決定した のである。1991年に完成して、すぐに開港。そして今に至る・・・ 「・・・でも、私の故郷じゃ宇宙ははてしなく遠いんですよ」とさゆり。 「そうみたいね。いまだに火星や金星にも有人着陸がまだとはねえ」と舞。 「ええ。私がいきてるうちに火星着陸はなんとかなるとは思うけど、それ以上は ・・・とても」 「私にとっては宇宙は身近なんだけどねえ」 「そういえる舞さんがうらやましいですう」 「・・・ねえ、よかったら宇宙に行ってみたくないかしら」 「行きたいですけど・・・どうやって」 「私、宇宙船持ってるの」 「ええええええっ」  翌日。  さゆりは舞の住むアパートに住んでいた。アパートは「レイク・タウン」のある 第4ターミナルのすぐそばにある。2人は一緒に出た。  昨日の約束通り、舞は自分の宇宙船にさゆりをのせてくれるというのだ。  舞の運転するトヨダのコミューターがたどりついたのは第9ターミナルだった。 「私の船、プリズムへようこそ。乗船を歓迎します」と舞。 「・・・ありがとう」 「ちっちゃい船だけど・・・結構はやいのよ」  コクピット。サブ・スクリーンには青い地球が映し出されていた。  どんどん小さくなっていく・・・ 「・・・どうかしら」 「地球って・・・きれい・・・ですね」 「ええそうね。私も始めて宇宙に出たときは感動したもの」 「・・・ところで・・・どうして宇宙船をもってるんですか」 「・・・どうしてっていわれちゃうか。やっぱし」 「喫茶店と宇宙船じゃ違いすぎますから」 「・・・昔ね。私、運送屋をやってたの。私は宇宙で仕事がしたくって、それでハイ スクールを出ると免許を取って、それからある貨物船でしばらく働いたわ」  アイスコーヒーをすする舞。 「それから、友人の女性と一緒に、独立して運送屋を始めたわけ。それこそ銀河中を 飛び回ったわよ。でも・・・ある日エンジンがトラブッてね。それでリザは船外活動 に外に出たの」  どうやらリザというのが友人の名前らしい。 「リザは修理を終えて戻ろうとして・・・そこでごくごく小さな隕石が・・・」 「宇宙船は普通、そういうのはシールドかデフレクターかなにかではじきますよね」 「・・・だからデフレクターも調子が悪かったのよ。・・・それでまあ、ものすごく 落ち込んでねえ・・・それでしばらくはぼーっとしてたの。そんな私をみかねたコッ クリーが私に気分転換に喫茶店のマスターをやってみないかっていってくれたわけ」 「・・・そういう過去があったんですね」 「まあね。・・・だからそれ以来よ、この船動かすのは。でもわかったわ。私、やっ ぱり・・・宇宙がいいわ。こっちのほうが落ち着くもの」  舞は船長席から立ち上がり、オブザーバー・シートに座っているさゆりのところに やってきた。 「さゆりさん、ありがとう。それから・・・そこで泣いていいかしら」  とさゆりを指差す舞。  そして、さゆりに抱かれ、静かなコクピットに舞の泣き声が響いた。 「こんにちは」  第9ターミナルに戻ると新城がいた。 「・・・誰かしらこのヘンナ人」と舞。 「やっときたわね新城くん」 「ええ。それはそうとして・・・さゆりさん、今までどこに行ってたんですか。ぼく は心配したんですよっっ」  と強い口調でさゆりに言葉をぶつける新城。 「ちょっと宇宙まで」 「・・・道理でディメンション・スキャナーにひっかからないはずだ」 「・・・それならなんでここがわかったのよ」 「あちこち聞いて回ったんですよ。幸い舞さんが有名だったのですぐにわかりました けどね」 「有名なんだあ」 「・・・たいしたことじゃないですよ」 「いよいよ。今日ですね」  そしてさらに5日が過ぎた。さゆりの転移は多分今日である。 「ええ。舞さんていい人だしもっといたかったけど・・・」 「しょうがないわ。宇宙にはどうにもならないことって結構あるものよ」 「・・・はあ。そうですよねえ」 「パラレルワールドには私も興味があるけど・・・でもさゆりさんみたいに漂流する のはさすがに嫌です」 「誰だって嫌よ。いく先選べないしねえ」 「ねえ・・・新城さん。私達の世界はWDOに入れる見込みはあるかしら」 「十分ありますね。科学技術もレベルが高いですし、統一政府もありますし・・・ 多分ぼくが本部にレポートを送ったらすぐに準加盟ぐらいはできると思います。 まあさすがにいきなり正加盟は難しいので・・・」 「そうなんだ。じゃ・・・今後が期待できそうね」 「ええ」 ------------------- 2000/7/14-2000/7/15