月は東に日は西に - Operation Sanctuary - SS/       「それは不思議な装置なの」by BLUESTAR  ★第97管理外世界(現地名地球)、日本、海鳴市  闇の書事件から数ヶ月後。すっかり春。  高町なのはは、現地司令部で時空管理局のエイミィ・リミエッタとお茶を飲んでい たところ突然警報が響き渡った。 「・・・今の警報、何だったんですか」 「次元震ね、小規模だけど」  エイミィはそういいつつ、モニターのデータを確認する。 「あのそれっていったいどこなんですか」 「この世界じゃないわね。ここからちょっと離れた管理外世界ね。未調査だからデータ もないし、とりあえず仮符号としてX−188管理外世界とでも呼ぶことにするけど」 「この世界に対する影響とかは大丈夫なんですか」 「・・・どうやらそれは大丈夫ね」  その後、エイミィはなのはに要請した。今起きた次元震の調査をしてもらいたいと。  ★X−188管理外世界(現地名地球)、日本、蓮美市  次元震の発生場所は、異世界の日本列島で、海に面した都市の丘の上にある建物だっ た。なのはの住む海鳴市とは地形が違う。  なのはは建物の中に直接転送された。目の前にある「理事長室」の中に入る。 『エイミィさん、今理事長室に入りました』  なのはは念話でエイミィに話しかけた。 『了解。次元震の発生源はその部屋の近くのはずだよ』 『奥にもうひとつドアがあります。かすかに開いてますけど』 『それなら中に入ってみて、気をつけてね』 『はい。・・・階段があります』  それからしばらくして、次元震発生源である部屋の前になのははたどり着いていた。  なのはは中に入った。そこには・・・なにやら巨大な機械らしいきものが見えた。  そして、コンソールらしきところでキータイプしている小さな女の子の姿。 「・・・えっと、こんにちは」なのはは呼びかけた。 「・・・はい、こんにちは・・・」  それから小さな女の子はため息を吐いて、なのはを見つめた。 「・・・どう見てもあなたは学園の学生じゃありませんよね」 「ええまあ・・・」 「つまり不法侵入ですね。よくわかりました。・・・コンピュータ時空シールドオン」 「ええええっ」  なのはは周囲の空間でなにか妙な音を聞いたようなきがした。 「シールド展開完了。・・・まさか子供に不法侵入されるなんてこの学園のセキュリテ ィは見直さないといけませんね」 「あの・・・そういうあなたも子供なのでは」 「私はこう見えても立派な大人です。それであなたはどこの手先なんですか。中連、韓 連、EU、それともAUあたりですか」 「あの・・・意味がよくわからないんですけど」 「とりあえず、名前ぐらいは聞きたいですね。もちろん偽名でかまいませんけど」 「偽名って・・・私をなんだと思ってるんですか」 「どこかの国だか秘密結社かテロ組織あたりのエージェントじゃないんですか」 「違います。私は高町なのは、時空管理局の魔導師です」 「時空管理局・・・SFにでも出てきそうな名前の組織ですねえ。・・・こっちも礼儀 として名乗っておきますね。私は野乃原結。オペレーション・サンクチュアリのスタッ フです」 「オペレーション・サンクチュアリっていうと日本語にすると聖域作戦って意味ですよ ね。どういう作戦なんでしょうか」 「不法侵入者に教える必要は認めません」 「それは確かにそうですね」 「そういうことです。・・・ところであなたはここへいったいなにしにきたんですか」  なのはは、次元震のことについて説明した。 「なるほど。その次元震の原因はおそらくこの時空転移装置でしょうね」  手で部屋全体を指し示す結先生。 「時空転移・・・って平行世界を行き来できる転送装置のことなんですか」  なのはは管理局で使っている転送用の中継ポートみたいな機械かと思ったようだ。 「高町さんは誤解してますね。この装置は過去へ移動出来る装置ですけど」 「過去って・・・要するにそれってタイムマシンみたいなものなんですか」 「まだ未完成ですけどタイムマシンみたいなものですよ」 「ええええっ。そんなものがどうやって・・・」 「次元震が起きてその結果時空管理局の注目を呼んでしまったとするとこれは私の失敗 ですね。装置の管理者として謝罪します」  なのははあっけにとられた。まさか謝罪されるとは予想していなかったのだ。 「管理者って・・・この装置のですか」 「はい。私の正式な肩書きは、時空転移装置主任管理者ですからね。次元震なんてもの が起きた以上今回の改造は失敗ということになります。ところで高町さんは調査にきた んですよね。それなら調査はこれでおしまいでいいのでは」 「・・・時空転移装置について調べたいんですけど」 「この時空転移装置について調べるとなると、高等数学理論とか亜空間とかそういった 高度に専門的な知識がないと調べきれないと思います。私はこれでも天才科学者なので そこらへんはちゃんと理解してますし説明できますけど、あなたのほうはそれが理解で きますか」 「えっと・・・それはさすがに自信がないです。私まだ・・・小学生ですし」 「小学生なのに時空管理局なんてお仕事をしてるんですか・・・大変ですねえ」  その後、結先生はなのはに対してなるべく簡単に時空転移装置について説明する。 「・・・というわけです。わかりましたか」 「半分くらいは・・・はい」 「恭子より結。時空シールドがあがってるけど何かあったのかしら」  声がいきなり流れてきた。結先生は恭子先生に今までの経緯について説明した。 「それで結。高町さんをどうするつもり」 「理事長に判断してもらうつもりですけど」 「・・・そうね。なのはさんのバックには管理局とやらがいるわけだし、そのほうが いいわね。ところで結、駅前でプリン買ってきたんだけど、シールドあけてもらえな いかしら、差し入れしたいんだけど」 「プリン・・・は食べたいですけど、シールドをあけるわけにはいきませんね。とりあ えず冷蔵庫にいれといてもらえますか」 「了解。ところで結、理事長には連絡は入れたのかしら」 「今日は夕方戻ってくる予定だと聞いてますからまだ入れてないですよ」  約1時間後。 「玲から結先生。侵入者についての報告を頼みます」  結先生はなのはのことについて理事長に報告した。 「時空管理局ですか。SFにでも出てきそうな組織ですね。・・・高町さんはあくまで も調査だけですか」 「はいそうです」 「オペレーション・サンクチュアリにとって結先生は必要不可欠です。逮捕されたり したら滅茶苦茶になりますので。・・・それから申し遅れました。私がオペレーション・ サンクチュアリの責任者である宇佐見玲と申します。表向きにはこの蓮美台学園の理事 長をやっておりますので理事長と呼ばれております」 「・・・あの・・・どうして学園の理事長さんが責任者なんでしょうか」 「高町さん。逆です。私にとってはオペレーションの責任者というのが本業で、学園理 事長というのが副業といったところです」 「そうなんですか。驚きました」 「今回の次元震についてはこちらに非があるようです。それについては謝罪します。 それから高町さんが転移装置室に侵入できたのはこちらの管理の手落ちもあったようで す。なにより小学生の女の子を拘束するというのは教育者としてはいささかため らいもあります。・・・野乃原先生、シールドを解除して高町さんと一緒に理事長室へ きてください。それから仁科先生、4人分のコーヒーをお願いします」  理事長室。なのはは、ここでようやく恭子先生と理事長の顔を見ることになった。  先ほどまでの会話はすべて音声だけだったのである。 「こんにちは高町さん。オペレーション・サンクチュアリ医療部門主任の仁科恭子です ・・・まあ主任といっても部下とかはもういないんだけどね」  テーブルにはすでに4つのコーヒーカップがおかれていた。なのはは進められたソフ ァに座った。理事長、結先生、恭子先生も座る。 「それで玲、どうするつもりなの」と恭子先生。 「高町さんには、これを飲んだらかえってもらいます。もう夜も遅いですからね。それ に管理局の方でも心配されているはずです」と理事長。 「時空シールドは通信を遮断しますからねえ」と結先生。 「詳しい話は明日以降です。こちらも管理局向けにレポートをまとめる時間がいります から」 「はい。わかりました」となのはは答えた。  ★第97管理外世界(地球)、日本、海鳴市。 「・・・報告は以上です」 「ありがとう。・・・それにしても過去への移動とはね・・・とんでもない代物ね」  なのはの報告にリンディ・ハラオウン提督がつぶやいた。 「私もそれ見に行きたいな〜。なんかおもしろそうだし」とエイミィ。 「エイミィ。ピクニックじゃないんたぞ」とクロノ・ハラオウン執政官。 「はいはい。でも過去への遡航は不可能領域魔法なのに・・・」  エイミィは魔法をまったく使わずに出来た装置であることが信じがたいと思った。  リンディ提督はここにいる人々を見回した。 「そういうわけで明日は、その蓮美台学園に行きます。参加するのは、なのはちゃん、 私、エイミィ、クロノ、それから本局のミサ・ヤマザキ博士よ」  ★X−188管理外世界(地球)、日本、蓮美市  オペレーション・サンクチュアリについての説明は長きにわたった。  時空転移装置、恐るべきウィルスであったマルバス・・・。  説明が終わるとすでに日は大きく傾いていた。 「過去への時間遡航。・・・魔法じゃ不可能だから無理だと私は思っていたけど、魔法 を全くつかわなければできるのね。意外な盲点よ」とリンディ。 「管理局は魔法科学が中心ですから、何よりまず魔法と考えてしまうのはしかたないこ とです。ましてリンディ提督は立派な大魔導師ですから」  ミサ・ヤマザキ博士は、優秀な技術者である。魔法科学のみならずそれ以外のものにも 造詣が深い。薄青色の長い髪をした長身の女性である。ミサ本人の魔力は一般人レベル でしかないので、機械とか装置とかに深い興味を持っているのである。 「それにしても驚きました。みなさんが22世紀からの未来人だったなんて」  と目をまるくしているなのは。 「私は理事長さんがAIだというのにはすごく驚きました。ここまで人間に近いAIは 私初めてみましたから」と淡々と語るミサ。 「いろいろと驚いたけど・・・そのマルバスってすごいウィルスですね。1つの世界を 絶滅寸前に追い込むなんて」とエイミィ。  それから今度は時空管理局と魔法科学と次元震についての説明がリンディを中心に 展開された。 「次元震というのはそこまで恐ろしいものなんですねえ。よくわかりました」と結先生。 「魔法というのは結構すごいのねえ」と恭子先生。  ・・・それから長い話し合いの末。  時空管理局の次元世界の転送装置とオペレーション・サンクチュアリの時空転移装置 を合体させた装置、つまり時空次元転移装置(DSDT;The device of space-time dimension transference)の開発を行うことに決定したのである。もちろん次元震の再発 を防ぐため、そして管理局の監視のために、ヤマザキ博士が蓮美台学園に駐在するこ とになったのである。  ★  それから3年後。  時空次元転移装置はひとまずの完成となった。  よほど荒い使い方をしなければ次元震の発生はないだろうとのこと。  蓮美台学園の装置は1号機と呼ばれる。管理局側の転送中継ポートのシステムも 組み入れたため、空間移動の安定感が向上し、かつてのように制御に失敗して空中に出 現するようなこともなくなった。  一方、時空管理局でも時空次元転移装置は順次導入されていった。  これによってもとより多忙だった管理局の業務はさらに多忙となったのである。  時空管理局にある巨大で整理不十分なデータベース「無限書庫」には、X−188 管理外世界のデータも加わった。無限書庫のデータに「未来」のデータが加わったのは もちろん史上初であった。 ----------------------------- 2007/2/20-2007/3/1            あとがき  今回は、はにはに+「魔法少女リリカルなのはA's」(テレビアニメ)です。  魔法では過去への時間遡航はできません。でも時空転移装置なら・・・というわけで こういう話にしてみました。  時間的には「A's」の14話あたり(注・ドラマCD「サウンドステージ03」のこと) ということになります。  この後、なのはは時空管理局に正式に入局して、いろいろと活躍するわけです。  そして、「リリカルなのはSTRIKERS」へと続くわけですな。  「なのは」「なのはA's」「なのはSTRIKERS」で併せて52話の中では、今回のSSは 26・5話あたりということになるわけです。  「なのは」は「とらいあんぐるハート」のアナザーワールド+スピンオフというかな り特殊な生い立ちなのですが、元はゲーム出身ですし、「(アニメ版)リリカルなのは」 のゲームというやつを一度やってみたいなと思うです。  PS2でもいいけど、Windows全年齢で出してほしいなと思いますけど。  「A's」と「STRIKERS」の間は約10年あるからその間の話という形で、もちろん内 容はロストロギアがらみのオリジナルストーリーとか。  もちろんはやてが健康になった後ということで。  「なのは」は地元の独立UHF局がやってくれたのですが、「A's」はCSの一挙 放映で補完でした。6時間半もあったのでT−120・3倍速じゃ足りなかった(爆) 「STRIKERS」はいったいいつみれることやら。  補足。  第97管理外世界というのは、「STRIKERS」のコミック版に出てくる設定です。  #ていうか今まできいた記憶がないんですが^^;  ミサ・ヤマザキ博士は、このSS用のオリジナルキャラです。本編で探さないよう にお願いするです(爆)  それじゃあ最後は・・・やっぱり「スタンバイ・レディ」ということで。 by BLUESTAR 2007/3/1