「Seven Years After」   based upon "St.Tail"                            Written by BLUESTAR    「・・・神様が・・・みてる・・・観念して、おとなしくつかまれ・・・気が    つかなくてごめん」    そして、教会の中で。    怪盗セイント・テールはアスカJr.に捕まってしまったのです・・・  ・・・そして7年後・・・ 「聖華放送、大堀克彦(おおぼりかつひこ)のワンダーナイト。さあてつぎのお便りは 聖華市のカテドラルさんから。     今週のテーマは"思い出の90年代"ということですが、私にとってはなんと    いってもあの怪盗セイント・テールでしょう。ポニーテールをなびかせて華麗    に活躍する姿にちょっぴり憧れたものです。・・・泥棒なんだからこんなこと    書いちゃまずいかなあ。セイント・テールが現れなくなってもう7年ほどにな    りますけどいまはどこでどうしているのでしょうか。  ・・・うーん・・・セイント・テール。懐かしいねえ。確かに憧れるって気持ちは わかるなあ。おれもあこがれましたから。結局最後まで正体不明のまま、ぱったりい なくなっちゃったけど・・・今頃はどうしてるのかなあ。ははは。他にもセイント・ テールについて書いていた人は結構いましたねえ。聖華市の西風さんからは、     なんといってもセイント・テールですね。アニメ・小説の世界から抜け出て    きたようなあのカッコ良さ。風になびくポニーテール。・・・正体が知りたく てたまらなかったなあ。・・・でも犯罪者なんですよね。そういえばそろそろ 時効になるのではないでしょうか? そのへんどうでしょうか  ということで、さっそく聖華市警に電話して聞いてみました。記録ではセイント・ テール最後の事件は1996年のマリア像の事件だそうです。これを最後にぱたっと 活動が停止しています。セイント・テールの侵した犯罪は盗み−窃盗罪だけ−ですの で、刑法により時効は7年とのことです。  つ・ま・り・・・なんと8日後に時効が成立することになります。というわけで西 風さんの指摘は見事にビンゴ!!といったところでしょうか。  二人の他にもセイント・テールについての書いた投稿が実はたくさんきています。 そこでワンダーナイトでは、このさいなので、怪盗セイント・テール特集を行いたい と思います。放送は7日後に行います。  特集をやりながら、セイント・テールの時効瞬間をむかえようというわけです。  特集へのみなさんの投稿お待ちしています。  葉書は、郵便番号STA-0500聖華放送、大堀克彦のワンダーナイト怪盗セイント・テ ール特集 まで。  FAXはいつもどおり、0SA-555-1777です。  さあてそれでは・・・CMです」  海岸沿いにある喫茶店ローカスは平日の午後ということもあって客はまばら。  静かな店内には静かにクラシックらしきものが流れていた。 「それでアスカ、ワンダーナイトの話は聞いたの」  と芽美はたずねた。 「ああ。今朝聖華放送から電話があったよ。局にセイント・テールだけで何でも20 00通もきていたらしいぜ」 「ひゃあ。すっごいわねえ。そんなにセイント・テールってすごかったのね」 「おいおい、他人ごとみたいに言わないように」  と声を落としてアスカJr.は言った。 「はぁい。・・・それでアスカは出演するの」 「・・・そうだなあ。特に急ぎの仕事もないし、セイント・テールに一番詳しいオレ が出ないというのもヘンだしな」 「私もいってみたいな・・・なんて」 「それは却下する。そうなったら大変だからな」 「あぁん、いじわる〜。本人が出ればリスナーが喜ぶとおもうけど」  とこっそりささやく芽美。 「・・・こらこら。」 「・・・怒らないで。冗談よ。いってみただけ。そんなことしたらアスカが許さない ことぐらいわかってるわよ」  芽美は思いかえしてみた。かつてセイント・テールだった自分を・・・。  自分がセイント・テールだったことに芽美は後悔はしていなかった。なぜならもし 自分がセイント・テールでなかったら、今の自分はもっと違うものになっていただろ うから・・・ 「ラジオ番組・・・ですか。私も一度出てみたいな・・・なんてね」  教会の裏で、シスター姿の聖良はそんなことを言った。 「・・・せ・い・らー」  とあきれる芽美。 「ああもちろん冗談ですわよ。私がセイント・テールのパートナーだったなんて言う わけにはいきませんものね」 「あのねえ・・・」 「芽美ちゃん、当日はちゃんと録音しとかないね。ワンダーナイトは3時間番組です からMDじゃ足りませんわね、ビデオテープでとってみたらいかがかしら」 「録音・・・ってあの・・・」 「アスカJr.はもちろん出演するんでしょう。ちゃんと取っておかなくちゃね」 「あっ・・・それもそっか。」 「それにしても・・・やっと時効なんですね。あれから7年・・・。あっというまで したわ。今にして思えば」 「そうね。7年の間にいろいろあったけど・・・」 「芽美ちゃんには本当にいろいろありましたものね。今は夢がいっぱい、幸せがいっ ぱいって表情ですわね」 「ははははは・・・やっぱわかる」 「ええ。よくわかりましてよ」 「佐渡(さわたり)です。なんの用でしょうか」 「ああ。かけたまえ」  ここは聖華放送の第7会議室。会議室といっても6人も入ればいっぱいになってし まう小さな部屋だ。ここは別名大堀ルームと呼ばれていた。この部屋には大堀の担当 する番組に来た葉書やFAXが山になってそびえている。聖華放送の今の局舎は手狭に なっており、現在新しい局舎を工事中であった。そのためやむなく会議室を葉書置き 場にしている。 「ワンダーナイトで今度セイント・テール特集をやるんだが、君も出てくれんか」 「なんと・・・セイント・テール特集・・・ですか。ぜひ出させてください」 「よっし、あっさり決まったな。よしよし、よし」 「あのでも・・・何で私なんかに」 「特集のために当時の記録を調べて見たら、セイント・テールのかなりいい写真を いくつかみつけたんだよ。しかも撮影者は当時中学生だったそうだ。どこかでみたよ うな名前だったんでデスクに聞いたら・・・びっくりしたよ。まさかうちのカメラマ ンだったとはな」 「・・・ああなるほど。そういうことですか」 「そういうことだ。オンエアは4日後だが、スケジュールに問題ないな」 「・・・ありません」 「聖華放送、大堀克彦のワンダーナイト。聖華放送第1スタジオから生放送でお届け しています。今日は怪盗セイント・テール特集をお届けしています。もうすぐ0時に なります。そうしますとセイント・テールの時効が成立するわけですが・・・アスカ Jr.、どんな気分ですか」  今日のワンダーナイトにはめずらしくゲストがいるようである。 「そうですねえ・・・残念ですね。できればセイント・テールの正体を確かめて、で きればこの手で捕まえたかったですから」 「そうだよねえ。何しろ長年追ってきたんだからね。高宮さんはどうですか」 「私も残念です。結局最後まで正体不明のままということになりそうですわね。もし 今度出てきたらぜひ捕まえにいきたいんですけどね」  アスカJr.の隣には、高宮リナが座っている。リナは今では聖華市警に勤めている。 なかなか優秀なのだが、時々アスカJr.に手柄を横取りされるのが気になっているよ うだ。 「でもどうやらその今度はなさそうですね」 「そうなのよね・・・それがちょっと残念なんだけどね」 「それから佐渡さんは」 「そうですねえ。今まで7年出てこなかった以上、もうこれからも出てくることはな いでしょうね。・・・ああぜひもう一度カメラにその姿をおさめたかった・・・」  佐渡は今では、聖華放送のカメラマンである。 「さあ・・・そろそろ時報です。午前0時になります・・・」  pu,pu,pu,pu- 「・・・午前0時をまわりました。聖華放送、大堀克彦のワンダーナイト。今日は怪 盗セイント・テール特集をお届けしています。それではここで番組冒頭で予告してお いた謎のテープメッセージをここでお届けします・・・1、2、3!!」  そしてスタジオにカセットテープが流れ始める・・・    「長らくお待たせ!! 怪盗セイント・テールです。今日はなんか私の特集だっ    ていうんでメッセージをお届けします。・・・なんか照れちゃうな。あたしが    どうしたのかみなさん不思議だったようだけど・・・。思うところあって、7    年前からあたしは怪盗として活躍するのをやめました。もともと気まぐれでは    じめたことだから、気まぐれにやめよってことでね。それで今あたしはどうし    ているかというと、愛する人もいて幸せに暮らしています。だからそっとしと    いて欲しいな、なんてね。     怪盗を卒業したあたしが今回のメッセージをなぜ送ったかというと・・・番    組にきた葉書は結構あたしの復活を望む声が多かったようだし・・・でも。     でも、それはありません。これが最後だからはっきり言うべきね。     怪盗セイント・テールはもう二度と現れません。このメッセージはいわば、    セイント・テールの引退宣言です。どんなものでもそうですが始まりと終わり    が必ずあります。これはだからその終わりだと思ってください。     それでもね・・・怪盗セイント・テールは永遠に不滅よっ。なんてね。     最後に探偵さん・・・それからあたしを応援してくれたみんな・・・ありが    とう、そしてさよなら・・・」 「・・・というわけでお聞きのとおり、セイント・テールからのテープメッセージで した。いったいどこで今日の事を知ったのでしょうか。このテープは今日、局に届い たものです。聖華中央局の消印でした。オンエアの前にアスカJr.に調べてもらいま したが、指紋等もまったくありませんし、テープもありふれた10分テープでした。 手がかりとしてはさっぱりさっぱりでしたね。」 「ええ・・・何か手がかりになればと思ったんですけどね」 「アスカ・・・こういうものがきてるなら来てるってどうしていってくれないのよ」  と怒るリナ。 「ははは・・・まあその」  ごまかすアスカJr. 「というわけで、実に素晴らしいメッセージでした。さてそれではここで聖華新聞ニ ュースです。報道部の山岸さん」 「・・・"まき"が入っております。どうやら私がしゃべりすぎたようです。セイ ント・テール特集、いかがでしたか。私としては始めてセイント・テールの声を聞け たのがうれしかったですね。それじゃゲストのみなさん、ひとことどうぞ」  いきなり早口でまくしたてる大堀。 「アスカJr.です。セイント・テールにたいしての思い出の葉書がこんなにあるという のは驚きました。時効になってしまいましたが、できればぜひ一度セイント・テール の素顔を見てみたかったですね」 「高宮です。時効になったのは本当にほ・ん・と・う・に残念。でも今度現れたら容 赦しないわよっ、セイント・テール」 「佐渡です。・・・今日はスタジオにセイント・テールが現れることを実は密かに期 待していましたが、現れなくて残念です」 「さ・わ・た・り〜、何期待してんのよっ」  ゲストの3人もつられて早口になっている。 「はい、ゲストのみなさん3時間どうもありがとうございました。番組ではご意見・ ご感想等お待ちしてます。大堀克彦のワンダーナイト、今日はこのへんで。エンド・ プログラム。こちらは聖華放送。午前1時です」  この話には実は続きがある。この特集を聞いて更に葉書がたくさん来てしまったの だ。かくして2週間後に「怪盗セイント・テール特集PART2」が組まれたのである。  このときの放送内容については、2004年に出た番組の単行本「ワンダーナイト ・ブック1」にもきちんと書かれている。  ・・・さらに1年後・・・  聖華市の郊外にある小さな教会で、ささやかな結婚式が行われた。  ヴァージン・ロードを歩く2人は・・・とてもとてもとても幸せそうであった。  秘密の約束が永遠の約束になったのだから・・・  ウェディングベルが高く鳴りひびき、やさしい天使たちが降りてくるのにふさわし い光景と言える。  花婿は黒いタキシードに身を包んだアスカJr.。  花嫁は白いウェディングドレス姿の芽美。  20人ほどが二人を取り囲んでいた。 「おめでとう、アスカ・・・幸せになんなさいよっ」  とリナ。 「おめでとう、芽美さん。何かあったらすぐに相談においで」 「こらこら佐渡。おれのことをなんだと思ってンだ」 「やはりお前には安心して任せておけんからな、うむうむ」 「さ・わ・た・りぃぃぃ」 「芽美ちゃん、おめでとう。二人ともお幸せに」 「ありがとう、聖良。心からそういってくれるのはあなただけよ」  と芽美がにこやかに言った。。 「・・・それにしても、ここにセイント・テールが現れたら面白いのに」 「どう面白いのかしら、佐渡」とリナ。 「そうだなあ・・・例えば探偵さん結婚おめでとうございますとかいって花束が空か ら降ってくるんだ。でみんながあっけに取られる・・・なんてね」 「おいおい。もしそんなことになったら、おれは花嫁を放り出して追いかけないとい けなくなるじゃないか」 「でもって邪魔されて怒った私はアスカと一緒になって追いかけると」と芽美。 「はは・・・まぁそんなことにならなくてよかったね、芽美さん」 「・・・ええ。そうね」  もちろんそんなことはおこるはずもなかった。なぜならセイント・テールは芽美な のだから・・・ 「花束といえば・・・そろそろこれ、投げよっか」 「・・・ああそうだな、芽美。高く投げてやれ」 「せーのっ」  そして花嫁の持つブーケが空高く投げられた・・・                                 1997/4/5-4/9