月は東に日は西に - Operation Sanctuary - SS/       「太陽系の惑星」by BLUESTAR 「銀河系にはいろんな天体があるんだなって思ったよ」  放課後のカフェテリア。美琴は昨日みたテレビの話をしていた。  宇宙に関する話なのでちゃんと天文部らしい内容である。 「よおしそれじゃ美琴、太陽系の惑星を全部いってもらおうか」 「おやすいご用だよ、直樹。水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星」  直樹は指折り数えて、首をかしげた。 「弘司、・・・美琴の答えじゃだめなんじゃないか」 「確かにだめだね」 「え。どこがだめなのよ」 「北崎。だめだろ」 「・・・すいきんちかもくどてんかい・・・確かにだめだな。天ヶ崎さん、太陽系の 惑星の数はいくつかな」 「8個」  そこへ結先生が現れた。結先生はやってきた茉理にプリン・ア・ラ・モードを注文 した。 「・・・結先生、早速ですが質問です。太陽系の惑星はいくつですか」 「私は天文部の顧問ですよ。そんな初歩的な問題を出さないでください。8個です」  仁科先生が天文部席の横をとおりがかった。 「これはこれは仁科先生。太陽系の惑星はいくつでしょう」 「簡単な問題ね。8個よ」  北崎は、天を仰いだ。 「仁科先生、この書類をみてもらえますか」 「来月の計画表ね。いつもご苦労さま橘」  仁科先生は書類を持って立ち去っていった。 「橘さん、太陽系の惑星の数はいくつでしょう」 「確か8個だったと思いますけど」 「ありがとう」  ちひろは外に出て行った。 「・・・1930年、アメリカの天文学者が新しい天体を発見しました。英語ではプル ート、日本では冥王星と呼ばれています。冥王星は太陽系の第9惑星です。第9惑星が あるのになぜ8個なんですか、結先生」  コーヒーを飲み終えた北崎がおもむろに口を開いた。 「それは・・・そんな・・・」 「今は21世紀です。たとえば19世紀ならその答えで正解ですけどね」 「なあ、北崎。単なる思いこみとか勘違いなんだからそのへんにしとけよ」 「広瀬部長。4人もの人間が一般常識にくっきり間違う確率というのは滅多にありま せん。それこそ天文学的確率というやつです。もちろん他に可能性もありますね」 「どんな可能性だ」 「冥王星が発見されたのは1930年です。明治や大正の人間だったらそう答えても おかしくないでしょう。・・・以前から天ヶ崎さんは妙な言動が多かったんですけど、 ・・・天ヶ崎さん、結先生、二人はいったいいつの時代の人間なんですか」 「北崎くん。私は明治や大正じゃないよ。ちゃんと現代の人間だよ」と美琴。 「そうですよ。何妙なことをいうんですか」と結先生。 「天ヶ崎さん、明治維新は何年ですか」 「1868年」 「日露戦争、日本海海戦。日本海軍の相手は」 「ロシア連邦、パルチック艦隊」  直樹がかすかに首をかしげた。 「関東大震災は大正何年ですか」 「・・・21年だったかな」 「広島と長崎の原爆投下の日付」 「1945年8月6日と9日」 「東京オリンピックの開会式の日付け」 「1964年8月」 「1990年代に総理大臣になった村川首相の政党は」 「民自党」 「1968年に月面着陸したのはアポロ何号かな」 「・・・11号だったかな」  今度は弘司が首をかしげた。 「天ヶ崎さんの誕生日は5月15日ですけど、何年のかな」 「にせん・・・」美琴は自分の口を手でふさぐ。  どん。北崎はテーブルをたたいた。 「天ヶ崎さんは、もしかしたら・・・未来人じゃないかな。違っていたら誤るけど」 「ここから先の話は場所を変えることを提案します。こんなオープンスペースでする ような話じゃありません」  突然立ち上がった結先生がそういった。  天文部の部員たちはそんなわけで理事長室にやってきた。  ちょうど誰もいないようだ。 「それじゃ話を続けようか。天ヶ崎さんは未来人かな」 「・・・そうだよ。でもどうしてあれだけでばれたのか私わかんないよ。説明して」 「久住くんから天ヶ崎さんとの屋上でのファーストコンタクトの話を聞いて以来、 天ヶ崎さんは要注意人物だったのさ。パラシュートで降下してきたのかと最初は思った けどね」 「直樹、あれ話したの」 「保奈美はの話題意図的にさけてるしさ。それで北崎にな」 「そして今日。よりによって太陽系の惑星は8個ときた。9個あるのに8個というのは 同考えてもへんだからね」 「9個・・・そんなはずは」 「その後の質問にも変な間違いかたをしていたからね」 「変な間違い方って」 「日本海海戦は、ロシア帝国のバルチック艦隊。関東大震災は大正12年、そもそも 大正は15年しかないのに21年があってたまるか。それから東京オリンピックは19 64年の10月だ、体育の日は今では移動祝日だけど制定時には10月10日の固定 祝日だったんだ」 「何で10月10日なの」 「東京オリンピックの開会式が10月10日だったから。祝日の名前を具体的にかかな いのはこの国の悪い癖だぜ。それから村川首相は社連党。アポロ11号が着陸したのは 1969年だよ」 「なるほど確かに美琴は変な間違い方をしてるな」と直樹。 「そういわれても・・・」 「そして生年月日のにせんというのはいったいなにかな。せんきゅうひゃく、とか、 しょうわ、とかじゃなく。・・・とまあそういうわけで未来人かと思ったんだけど」 「それで、北崎くんとしてはどうするつもりなんですか」と結先生。 「別にどうもしませんよ。天ヶ崎さんが天文部の部員であることには何の変わりも ないでしょう。ただ・・・未来のことを少し知りたいなとは思いますけどね」 「知ってどうするんですか」 「SFファンとしては本物の未来がどういうものなのかやっぱり知りたいですから」 「えっ」 「そりゃ歴史改変に興味がないとはいいませんけどね。でもうかつに歴史をいじったら どこなことにならないし、それに下手すると天ヶ崎さんが消える可能性もあるわけだ」 「それはそうだけど」と美琴。 「ところで久住くんは未来人だということは知っていたのかな」 「ああ」 「それでもいいのか」 「美琴は美琴だろ」 「まあな」 「ところで、結先生」  広瀬部長がトイレに出かけたあと。北崎がおもむろにたずねた。 「はい、なんでしょう」 「ふと思うんですけど。太陽系の惑星が8個って答えた仁科先生と橘さんも実は未来人 ですか」 「・・・はい、その通りです。もちろん秘密にしといてくださいよ」 「そりゃもちろん。・・・そうするとこの学園には未来人は何人くらいいるんですか」 「さすがにそこまでは教えるつもりはありません」 「それもそうですね。ところで・・・理事長がこのことを知ったらどうなるかな」 「それは問題ありません」 「・・・もしかして理事長も未来人だったりなんてことはありませんよね」 「・・・そういうことです」 「なあ久住くん。どうやらぼくたちはとんでもない学園にいるらしいぞ」 「ああそうだな」  夜。時空転移装置室。  結先生、美琴、仁科先生、ちひろの4人がいる。  結先生は、北崎にばれた件について説明した。 「ところで結、この時代の太陽系の惑星が9個って本当なの」と仁科先生。 「ええ。歴史データベースで調べた結果、1930年から2006年までは9個だった んです」 「普通、天体って増えるのはわかるけど何で減ってるのよ」 「1930年に発見された冥王星は2006年の国際天文学連合の総会で惑星から矮惑 星に変更されたんです。その結果9個だった惑星が8個になったんです」 「つまりそれって格下げってことかしら」 「はいそうです」 「一度惑星にしたのならそのままずっと惑星でいいじゃない」 「冥王星は発見当時の観測技術では大きさがよくわからなかったこともありましたし、 それに発見者がアメリカ人でしたし、それに2006年以前にはそもそも惑星に関する 科学的な定義が実はなかったんですよ」 「定義がなかったって・・・そんなへんな話普通ないわよ」 「そうですよねえ。私もそう思います」 「その国際なんとか連合っていうのは余計なことをしてくれたっていうか」と美琴。 「よけいなことっていわれたら立場がないのでは」 「あと、体育の日が東京オリンピック記念だっていうのも初めて知りました」 「橘と同じ。そういうことなら東京オリンピック記念日にしときゃいいのに」 「私もそう思うよ」と美琴。 「まあ祝日の意義なんてきにしませんからねえ。そもそも日本の未来の祝日って移動 祝日ばっかりですからねえ。連休ばっかりで。春と秋と冬のゴールデンウィークとか」 「あらあらそれをいっちゃおしまいよ、結」  ・・・結局、そんな具合にとりとめのない話がしばらく続いたのである。 「そういえば。太陽系の惑星って英語でなんていうんだっけ、直樹」  数日後の放課後のカフェテリア。美琴が疑問を提示した。 「火星がマースで、木星がジュピター。あとは・・・わからん」 「直樹ぃ〜だめだよそんなんじゃ」 「マーキュリー、ヴィーナス、アース、マース、ジュピター、サターン、ウラヌス、ネ プチューン、プルート」  通りがかったウェイトレス、茉理が答える。 「さっすが茉理ちゃん、よく知ってるね」 「まあねえ」 「たまたまマンガに出てきただけじゃないのか」 「なーおーきー」 「まさかと思うけど、美少女戦隊ブレザームーンあたりかな」 「あの・・・よくわかりましたね、北崎さん」 「メインキャストの名前が太陽系の星の名前だからな、あれ。そのうち続編とかつくら れたりしてな」 「北崎、ブレザームーンってどういうのだ」 「10年くらい前に超ヒットした少女マンガでテレビアニメと実写とミュージカルにも なってる。アニメはアメリカでも人気だったらしい。ブレザーをきた中学生たちが変身 して闘う作品だよ。なつかしいね〜」 「あの北崎さん、年いくつなんですか」と茉理が問いかける。 「永遠の21歳・・・とでもこたえておこうかな。どっかの魔導師みたいに」  楽園の少女たちに登場するエイザードを気取る北崎であった。 ------------------- 2006/8/27-2006/8/31           あとがき  時事ネタです(笑)  太陽系の惑星が9個から8個になったということでそれをさっそくネタにしました。  22世紀人からすれば100年近く前に8個に減ったなんていうのは知らない可能性 が高いかなあと思ってね。  未来人はもちろんいろいろと知っているのですが、時には間違うこともあるというこ とです。  歴史の間違いについては美琴にぼけていただきました。  いやあだってね、あのちひろちゃんがこういうので間違うとは思えないしねえ^^;。  秋のゴールデンウィークは2009年に出現する予定です。(「タイムウォーカー」 という本にかいてありました。)  日本政府のことなので秋のゴールデンウィークを恒久化するのに祝日法改正とかやら なきゃいいんだが。  「ブレザームーン」が何をモデルにしてるかはわかるひとにはもうおわかりですね (笑)。  私は「セーラームーン」ではヴィーナス/美奈子ちゃん(綾爆)のファンだったです。  うーむ・・・なにもかもみななつかしい。  そういえば第10惑星とか第11惑星が出てくるアニメっていろいろありますけど ・・・まさか冥王星が降格とは世の中一寸先は闇ですなあ。  ではでは。 by BLUESTAR. 2006/8/31