「月は東に日は西に」SS/転校生北崎    by BLUESTAR  4月。  蓮美市、蓮美台学園はとてもいい天気だった。 「ケータイの電話番号は??」学園の屋上で久住直樹は尋ねた。 「えっと090−9558−7245−7774」と空から降ってきた少女が答える。  久住は桁が多くないかと一瞬不思議に思ったが・・・ 「なおくんっっ」と保奈美が叫ぶ。  そこへ野乃原先生がやってきた。既に昼休みは終わり5限は始まっていた。  直樹は空から降ってきた天ヶ崎という少女について保奈美に追求しようとしたが かわされてしまったのだった。そこで直樹は見なかったことにした・・・。  次の日、2年B組に転校生がやってきた。 「転校生の天ヶ崎美琴さんと北崎浩一(きたざき・こういち)くんです」  二人は簡単な自己紹介をすると、席についた。 「久住くん、二人に学園の案内をお願いしますね」と最後に結先生はいった。  次の日結先生は二人に部活の案内をするように久住に命じた。そんなわけで久住は 二人を連れて学園内をさまようはめになる。  結局二人はこれといって入りたいころがないからということであっさり天文部に入部 したのだった。  カフェテリア。 「この学園はすばらしい。こんな立派なカフェテリアがあるとは」  北崎は驚いた。 「前の学校とくらべてどうだ」と広瀬天文部部長。 「前の学校には学生食堂が存在しなかったから比較不能」 「なにぃぃ。それじゃパンとかはどこで売ってたんだ」 「校舎の間の渡り廊下に購買があってそこでちょこちょこと売ってた」 「さびしい話だなあ」 「田舎の高校なんてそんなもんさ」 「こちらが従妹の渋垣茉理だ。ここの1年」 「始めまして」 「こちらがうちのクラスの転校生で天文部新入部員の北崎さん」 「こちらこそ始めまして」  と頭を下げあう二人。 「しぶがきっていうと、どんな字かな」 「渋谷の渋に、垣根の垣です」 「ふむふむ。まつりっていうのはまさか・・・ひらがなかな」  北崎は最近読んだ少女マンガのヒロインからそんな連想をする。(*1) 「違いま〜す。草かんむりに末、それから理科の理です」 「新竜伝の後鳥羽茉理さんと同じ字になるのかな・・・こういう字だよね」(*2)  手帳にさらさらと書く北崎。 「はいそうです。・・・新竜伝ってどんな話ですか」 「竜の化身の4兄弟が世紀末に大暴れ。後鳥羽茉理さんにその4人は頭が上がらない んだ。料理はうまいし、優しい人だから」 「そうなんだ。あたしみたいな人だね〜」 「茉理。それはちょっと違うぞ〜」と直樹。  ばこっ。茉理の持っていたトレイが直樹を直撃。 「部室がないのならいっそ作るというのはどうだ」と北崎。 「おいおい」と広瀬部長。 「昔のマンガで、同好会に格下げされたバードウォッチング部が、ログハウスをつくっ ちまう話があるんだなこれが」(*3) 「ログハウスかあ。いいねえそういうの」と美琴。 「でも。4人でつくるのは大変だと思う」と直樹。 「それもそうか。よしべつの方法を検討してみよう」と北崎。  身体測定の日の朝。 「私の誕生日5・15だから」と、唐突に美琴がいった。 「何年の」と北崎。 「に・・・そんなのきくまでもないでしょ。わたし留年とかしてないし」  に・・・ってきこえたようなきがするのはなぜだろうと思う北崎であった。  連休後のカフェテリア。 「茉理ちゃんファンクラブがあるらしいよ」と美琴。 「そんなもんがあるのか。恐ろしい世の中だな」と直樹。 「世の中にはいろんなファンクラブがあるからねえ」と北崎。 「じゃあどんなのがあるのかな」と美琴がたずねる。 「スターパトローラーのオフィシャルファンクラブとか、よだまさしさんのファンク ラブとか」  スターパトローラーはアメリカの宇宙もののテレビドラマ。1960年代に始まって 延々と続いている。「スターパトローラー」「新スターパトローラー」「スターパトロ ーラー ファー・ステーション・ナイン」「スターパトローラー トリッパー」「スタ ーパトローラー アドベンチャラー」の5つのテレビシリーズが存在する。  よだまさしは有名なシンガーソングライターだ。 「へえ。そんなのあるんだ。よく知ってるねえ」と美琴。 「だって会員だから」 「うそっ」 「こんなこともあろうかと、会員証を持ち歩いているんだよ」  そういって会員証を取り出す北崎。 「MCC-1701-JP-222611ってなんか長い会員番号だなあ」と直樹。 「まあね」 「こっちは1530-211935・・・って何人会員がいるのよっっ」 「会員番号だけでは人数はどっちもわからないのさ。ちなみに正解は数千人と数万人」 「すっごーいっ」  5月15日。カフェテリア。 「そういえば、北崎くんの誕生日っていつだっけ」バースデーケーキと格闘する美琴。 「2月8日」 「ふーん・・・で、何年のかなあ」にたにたと尋ねる・・・。 「えーと、・・・ARマイナス22年だ」 「うみゅっ。それって意味不明だよ〜」 「ARっていったいなんなんだっ」と直樹。 「アフター・リユニオン。人類社会が再統合された年だ」(*4) 「ARの元年っていったいいつなの」と美琴 「確か西暦2010年だったかなあ」 「何のネタなのよいったいっ」 「アメリカのSF小説だ」  というわけでパーティーは盛り上がるのだった。  5月23日、体育祭。 「クラスメートはみんな味方か。マンガみたいだなあ」 「そうかなあ」と美琴。 「去年の体育祭じゃクラスメートの3/4は敵だったからなあ」 「なにそれっ」 「前の学校の体育祭は地域対抗でね。東西南北4つの軍に別れて戦うんだ」 「そんな体育祭もあるのね」と保奈美。 「ぼくは去年は西軍だったんだ。引越がなければ3年間西軍のはずだった」 「それじゃクラス関係ないよね」と美琴。 「まあね」 「時期は蓮美台学園と同じだったのかしら」と保奈美。 「とんでもない。文化祭・体育祭は9月のまん中で連続開催だったから」 「えええっ。9月っていったら暑くないのかな」 「もちろん暑いよ。厳しい残暑のまっただなかってわけだ」 「蓮美台学園は5月でよかったね」 「まったくだ」 「北崎くん、おかえりっ」と美琴。 「どうも」と競技から戻ってきた北崎がいう。 「それにしても、ロングホームルームの時、北崎くん休みだったのに、誰がエントリ ー決めたんだろう」 「夜になってから委員長から電話がかかってきた」 「えっ」 「何回かけても留守電だって怒られたけどね。それで1つだけエントリーしといた」 「1つだけなの」 「ぼくの体育は全滅だからね。本当はエントリーしたくなかったけどね」 「・・・北崎くん。そんな後ろ向きじゃだめだよ」 「人間できることとできないことがあるもんなんだよ。だれもがみんなミス天ヶ崎みた いに足が早いとは限らないんだから」 「・・・そういうものなのかなあ」  6月1日、部活中。 「夏服だよ〜」とくるくる回る美琴。 「デザイナーはいい仕事をしていますなあ」と北崎。 「わたしもそう思う〜」 「前の学校の制服ってどんなのだ」と尋ねる直樹。 「男子の冬服は詰め襟で、夏服はあっさり半袖」 「違う。おれがききたいのは・・・」 「女子の制服は地味だったなあ、蓮美台学園と違って」 「そんなに地味だったの」と美琴。 「ああ。田舎の高校なんてそんなもんさ」  6月5日、部活中。 「へびつかい座ってあったよな〜」と広瀬部長。 「確か有名になりそこねたやつだな」と北崎。 「なんだそりゃ」 「へびつかい座インフォラインていう昔のSFにそうかいてあった」(*5) 「ちょっと待て。どういう話だ」 「地球を失った人類にとって、へびつかい座の方向からくる電波情報をありがたがる話 だ。原題はオフィユーカイ・インフォライン、だったかな」 「オフィユーカイって何のこと」と美琴。 「へびつかい座のこと」 「へえ。そうなんだあ」 「地球を失ったっていうのは・・・爆発でもしたのか」 「西暦2050年に、地球は異星人によって占拠されちまうんだ。ただそいつらは宇宙 空間にいる人類にはまったく何もしなくてね。でもってその年を起源として新しい暦を 使ってる。それがオキュペーション・オブ・テラ、地球占領暦」 「それってすっごく嫌な暦だよね」 「まったくだね」  7月20日、終業式。通信簿の日。 「北崎くんの成績はどうだったかなあ〜」と美琴。 「・・・みんな、地球を頼んだぞ〜」と北崎。 「意味不明だよ〜」 「北崎、説明してくれ」と広瀬。 「ソ連の宇宙戦艦からみんなを逃がすために犠牲になったUSA宇宙軍の艦長さんの台詞 だよ。そういうアニメが昔あってね」(*6) 「犠牲ってことは・・・もしかして赤点なの」と美琴。 「赤点があるのは最初から予想ずみだ。2科目ですんだよ」 「いったいいくつの赤点を想定していたのかしら」と保奈美。 「4つか5つの予想だったからね」 「・・・北崎くん、あなたそれって何か間違ってるわよ」と保奈美。 「そういうわけで、数学と古典はレッドカードだ。天文部はみなさんにまかせる」 「こらこら」と広瀬。 「数学と古典かあ。どっちも大変そうだね」と美琴。 「数学は本当に大変だぞ、覚悟はいいか」と直樹。 「・・・まあしかたないね」  カフェテリア。 「以上が夏休みの予定だ」と広瀬部長。 「さすが都会の学校だな。夏休みがちゃんと40日もあるとは」 「・・・前の学校は違ってたのかな」と美琴。 「7月末まで全員補習、そのあとに補習、登校日は8月6日、授業再開は8月26日」 「なにそれ〜っ。この学園よりハードだよ」 「ふふふ。そういうことだな」 「全員補習とは・・・それじゃ普通の授業とかわらんじゃないか」と広瀬部長。 「まあな」 「登校日がなんで6日なのかな」と美琴。 「原爆記念日」 「あっ・・・それでか」 「それにしても8月26日とは・・・なんでそんなに短いんだ」と直樹。 「田舎の学校だからかな。ちなみに夏休みが短いのは岐阜県でも僕のいたあたりと 飛騨のあたりだけで、岐阜市あたりはちゃんと31日まであるんだけどね」 「大変だね。そういうのも」と美琴。 「信州や北海道はもっと短いからね。それよりはね」 「北崎くん、それは比較する基準が極端だよ〜」と美琴。 「9月1日が始業式じゃないとは・・・世界は広いな〜」と直樹。 「ぼくにとって9月1日は防災訓練の日だったね。そういえば蓮美台学園では防災訓練 はあるのかな」 「ないない。始業式と防災訓練、同時にはやれんだろ」 「それもそうか。じゃ今年は炎天下の運動場にでなくてすむな」 「それにしても防災訓練ていうと・・・火災とか地震とかだよね」と美琴。 「ぼくが前にいた市は、東海地震の警戒区域だから基本的に地震かな」 「警戒区域って・・・確か名古屋とか静岡のあたりだろ」と広瀬。  7月下旬、夏休み、補習の後の保健室。 「仁科先生。結先生がオーバーヒート寸前です。冷却材を」 「あら大変。・・・結、大丈夫なの」 「だいじょうぶ、です〜」  冷蔵庫からプリンを出す仁科先生。 「・・・なにがあったの、北崎」 「教室の冷房が壊れてます。みんな溶ける寸前でしたよ」 「さっそく手配しとくわ。でも北崎、あんたよく平気ねえ」 「前の学校には冷房なんてぜいたく品はありませんでしたから」 「・・・ぜいたく品てあんたねえ・・・」 「田舎の公立高校なんてそんなもんですよ。私立と違って金がありませんし。最近では 学校を合体させて数減らしに走ってますから」 「そんなにあの県て金がないのかしら」 「ありません。まあ自治体の財政はどこも苦しいですからね」 「大変そうねえ。まあ私には関係ないからいいけど」 「まあそうですね」 「合体って、なんかロボットアニメみたいね」 「そうですね。実はぼくが前いた学校は07年度に合体して、学校名とカリキュラムが 変わるうえに校舎が2つ建て替え予定になってます」 「北崎・・・それだけかわったら全然別の学校になっちゃうわよ」 「ええ。へんな名前にならなきゃいいんですけどね」 「カリキュラムがかわるってどんな風にかわるの」 「今は、普通科全日制、つまり蓮美台のようにクラス単位で時間割がありますけど。 今後は単位制になります。大学もどきの高校です。毎時間教室移動、時間割は個人単位 の作成、みたいです」 「・・・大学もどきの高校って・・・すごいわね。岐阜県ではそういう高校が普通なの かしら」 「いえいえ。ごくわずかですよ。毎時間教室移動というのは面倒そうですからぼくは あんまり好きじゃないです」 「そりゃ誰だってそうよ」  7月30日、登校日・水泳大会。 「天ヶ崎さん、ご苦労さまでした」 「北崎くんこそ」 「それにしても不思議ですねえ。水泳だけ苦手というのは・・・」 「それをいわないでよ」 「ぼくよりはるかに水泳が遅いというのはどう考えても不自然です」 「だって水泳苦手なんだもん」 「それでは今後の精進に期待しましょう。はっはっは」 「うみゅ〜」 「確かに不自然だ。体育全滅の北崎より遅いとは・・・」と広瀬。 「全滅・・・ってそんなに全滅なの」 「北崎は完全に開き直ってるからな。救いようがないぞ」  8月31日。夏休み最終日。 「北崎、宿題は終わったか。おれは終わったぞ」とカフェテリアから電話する直樹。  「今日の26時くらいには終わりそうだ」 「一日は24時間しかないぞ」  「僕は数年前から1日30時間にしてるんだ」 「あのなあ〜」  「去年より夏休みが長くて助かったよ」 「去年はどうだったんだ」  「ミスター久住。そういう君は26日までに全部片づけられるかな」 「おれにはどうやっても無理だ」  「わかればよろしい」 「じゃあな」  電話を切る直樹。 「どうなの」と美琴。 「今日の26時くらいに終わるとか」 「26時・・・って深夜の2時だよね」 「ああ。多分」 「北崎くんも大変だねえ」 「去年より休みが長くて助かったなんていってたぞ。とんでもないやつだ」 「うわあ。確かにとんでもないよ」  9月1日、始業式。 「北崎くんは宿題終わったのかなあ」と美琴。 「終わったのは27時すぎだったなあ。ふあああ」 「27時って・・・おいおい」と直樹。 「実は寝てない。寝たら起きれない予感がしてね」 「大丈夫なの」 「幸い今日は授業がないからね。とっととかえって寝る予定」 「部活はどうするんだ」と広瀬。 「すまない。今日は帰らせてくれ。実はすごく・・・眠い」 「今、一瞬寝てただろ」 「ばれたか」 「それじゃしかたないなあ」  蓮美祭がいよいよ近づいている・・・準備も進む。 「今年の9月は楽だなあ」と北崎はしみじみという。 「そんなに楽なの」とたずねる美琴。 「去年の9月はいろいろあったからね」 「いろいろっていうと・・・」 「まず1日は毎年恒例の防災訓練。炎天下の外にいるのはすごく暑いね」 「ええっ毎年やってるの」 「でもって月のまん中の金曜・土曜が文化祭、日曜が体育祭だ」 「ええええっ。それって大変だよ」 「でもってそれが終わると、前期期末考査がやってくる」 「ええっ。前期・・・ってなにそれ意味わかんないよ〜」 「ぼくが前にいた学校は蓮美台学園と違って2学期制だったから」 「おいおい。大学じゃねえんだぞ」と久住。 「というわけで4月から9月が前期で、10月からが後期なんだ」 「いつから日本の高校はそんなことになったんだ」と広瀬。 「公立高校では蓮美台学園と違って週5日制だから授業日数がかなり減ってる。それを カバーするために、行事を削ったり、1日7時限を導入したりしているんだ。ゆとりの 教育とかいってるが何かゆがんでいるぞ」 「一日7時限って・・・とんでもないよ」とつぶやく美琴。 「蓮美台学園はまだ7時限じゃなくて幸い。でもって試験が終わると前期終業式だ」 「なんかそれぴんとこないなあ〜」と久住。 「まあそうかもな。まあどうせなら外国の学校みたいに始業式とかみんな削ればいい。 受験に関係ない科目もばっさり削るとかな。そこまでやらずに小手先でやるから妙な ことになるんだ」  9月19日、蓮美祭。 「いよいよだねっ。わくわくだよっ」と美琴。 「ここは体育祭とは別だなあ」 「あら北崎くん。どういう意味かしら」と秋山委員長。 「前の学校では、文化祭・文化祭・体育祭と3日連続でしたから」 「それは大変そうねえ。・・・ってちょっと待っていつ片づけるのよ」 「文化祭2日めのの後片づけと体育祭の準備は同時進行です」 「なによそれっ。大変じゃないっ」 「そうでもないですよ。ここみたいに模擬店もありませんし、体育祭だって地域対抗な んでクラス関係ないですからね」 「・・・模擬店がないって信じられないよ〜」と美琴。 「田舎なんてそんなもんだよ」 「三日間てことは日程はどうなるんだ」と直樹。 「9月まん中の金・土・日。今年だと多分10・11・12あたりですね」 「じゃたった10日間で準備するのね」 「違います。8月26日から2学期ですから、えっと15日間です」  10月9日。久住、美琴、北崎は祐介と遭遇した。そしてその後、仁科先生と 理事長から延々と「オペレーション・サンクチュアリ」の説明を受けた。  それはとんでもない話だった。まるでSFのような・・・。いやSFそのものだとし かいいようのない話だった。  その後、10月12日に久住は倒れた。  10月19日。時計塔、病室。 「ミスター久住が倒れてから1週間か。大丈夫かな」と北崎。 「大丈夫だよ・・・きっときっと」と美琴。 「それにしてもミスター久住とミスター祐介が同一人物とはね」 「わたしもびっくりしたよ」 「・・・本当に同一人物かもしれないし、あるいはクローンかもしれんな」 「・・・どっちなの」 「それはミスター久住に聞きたいよ」  しばらくして仁科先生が入ってきた。 「仁科先生、DVDプレイヤーはありますか」 「あるわよ」 「お借りしていいですか」 「どうぞ」 「北崎くん・・・私そんなのみる気分じゃないよ」 「昔のテレビドラマで似た話を思い出しましてね。参考になればと思って」 「どんな話なの」 「宇宙船の副長さんが実は7年前の事故でもうひとりいたことが判明するという話なん です」 「え・・・もうひとりって」 「転送装置・・・船から惑星に直接移動する装置ですが、それの事故で同じ人物が二人 になってしまったという・・・ややこしい話です」 「なんかまるで久住と祐介くんみたいね」 「ええ。時空転移装置って聞いた限りじゃなんか転送装置に似ているなっておもって ね」 「じゃ用意するわ」  そしてDVDプレイヤーが用意された。 「それでは始めます。新スターパトローラー147話、もう一人のウィルフレッド・ ライナー」(*7) 「・・・最後、二人は別々の人生を歩んでいくんだね」と美琴。 「ああ。ライナー中佐はその後着実に任務をこなし、やがて別の船の艦長になる。だけ ど、ライナー大尉は・・・レジスタンス組織に加わるのさ」と北崎。 「同じ人間なのにずいぶん違う人生ね」と仁科先生。  ようやく回復した久住。とりあえずひと安心。  そして北崎はスターパトローラーの話を聞かせた。 「・・・北崎。さっき、おれと祐介は決断を下した」 「どんな決断だ」 「おれと祐介はこのまま別々の人生をあゆんでいくということだ」 「・・・ウィルフレッド・ライナーみたいにか」 「ああそうだ」  その後。新しい薬を完成させた仁科先生は祐介と共に未来へ旅立った。  11月、夕暮れの静かな屋上。 「ぼくは、ミス天ヶ崎のことを工作員かなにかと疑っていた。まさか未来人だった とはね」と北崎。 「驚いたでしょ」 「まあね。真相を知ってびっくりした。人類がそこまで追い詰められているとはね」 「確かにそうだよね」 「ミスター久住から聞いたよ。空から降ってきたこと。ケータイの番号がなぜか15 桁もあったこと。・・・生年月日もとちるし・・・。タルキスタンはどこにあるのか わからないし・・・」 「そんなこともあったね」 「でもね断定できなかった。ミス天ヶ崎と一緒にいるのは楽しかったしね。それにあ なたはいつでも前向きな人だった」 「そうだね」 「僕もあなたみたいにいつでも前向きに生きられたらって思ったもんさ」 「・・・」 「僕はミス天ヶ崎とミスター久住なら内藤夫妻のような素敵な超時空カップルになれ ると思っている」 「内藤夫妻って誰」 「遥か青白き波濤という小説に出てくるカップルだ。旦那は大正生まれの新聞記者、 奥さんは2000年の自衛隊員」(*8) 「え。それって普通・・・出会えないようなきがするけど・・・」 「2000年から1942年に関東地方がタイムスリップする小説なんだよ」 「・・・1942年ていうと太平洋戦争だっけ」 「そう。本来の歴史なら出会うことはなかったカップル。それはミス天ヶ崎もそうな んだからね」 「そっか、そうだよね」 「というか、本来の歴史には蓮美台学園が多分なかったはずだ」 「つまり本来ならわたしたち出会わなかったんだよね」 「そう。それにあの時空転移装置。あれはどういうものだと理解しているかな」 「いわゆるタイムマシン、じゃないの」 「僕の解釈はちょっと違うんだ。100年単位しか移動できないなんて不便すぎる。 ウェルズのタイムマシンだって、どんえもんだって、ターン・トゥ・ザ・フューチャ ーだって行き先時間は好きに選べるぜ」(*9) 「そういえば・・・確かにそうかも」 「もしかしたら、100年後の世界からみるとここは相対過去、つまり良く似た別の 世界かもいれないね」(*10) 「えええっ」 「あの装置は時空間を縦じゃなくて、横に移動する装置。いわばタイムマシンならぬ 次元マシン、かもしれないね」 「もし横なら、なんで100年も違うのかな」 「昔読んだ漫画では、歴史の始まりが100年遅かったて書いてあった。それに、スタ ーリア戦記という小説では確か300年くらいずれてる話があったしなあ」(*11) 「ほえ〜」 「まあ僕が今いったのは単なる仮説だ。真実は・・・どうなってることやら」  ・・・ようやく、久住が缶コーヒーを買ってきた。  1年半後、卒業式。 「卒業おめでと〜」と茉理。 「ありがとう」と北崎。 「へえ北崎くん、ちゃんと卒業できるんだ。よかったね」と美琴。 「終わりよければすべてよしっ」 「・・・実は北崎くんの卒業が決まったのは昨日なんですよ」と結先生。 「ええっ。それじゃぎりぎりじゃない。なんでなんで」とたずねる美琴。 「古典の学年末テストの追試の5回めでやっと決まったんですよ」 「北崎、いくらなんでもぎりぎりすぎるぞ」と直樹。 「終わりよければすべてよしっ」 「こんなに成績が悪いのにどうして大学にはちゃんと受かるのかなあ」 「補欠合格だった君たち久住夫妻と違って日ごろの努力の賜物さ」 「・・・努力してないやつにいわれたくないぞ」と久住。 「ところで久住夫妻ってわたしと直樹のことかな」と美琴。 「もちろん。卒業と同時に同棲モードとはな。いっそ結婚したまえ」 「けっこん・・・それもいいかなあ」と空を見上げる美琴。 「北崎。おまえな」と久住。 「それにしても、君たち二人がまともに生活できるのか心配だな」と北崎。 「あたしも心配だよ。直樹って朝遅いしねえ」と茉理。 「そうそう。なおくんも美琴も二人とも時々遅刻してたしね」と保奈美。 「みんなしてそこまでいうの」と美琴。 「いいたくもなります」と結先生。 「ひとつ提案。いっそ藤枝さんが起こしにいくというのはどうですか」と北崎。 「・・・それ美琴がいやがると思う」と保奈美。 「そうだよ。・・・結婚といえば北崎くんはどうなのかな」 「・・・いきなり話題をふらないでください」 「北崎くん、茉理ちゃんとはうまくいってるの」と美琴。 「うまくいってますよ」 「それじゃ、いっそ結婚とか」 「あたしはまだ2年ですよ。そういう話はまず卒業してからです」 「そういうことだ。・・・茉理さん、ミスター久住の親権者は誰ですか」 「多分、うちの両親だと思う」 「それじゃ二人の了解とサインを頼みます」 「了解っ」 「天ヶ崎さんのほうはタルキスタンに連絡を入れるということで。そうすると後は 保証人が2人ですね。結先生とあとは・・・フカセンでいいかな」 「こらあ勝手に話を進めないでよ〜」と美琴。 「そういえばタルキスタンは通信事情が悪いんでしたね。・・・じゃ20歳になった ら市役所へレッツゴーということで」 「き・た・ざ・き・くんっ」と美琴。 「結婚式には呼んでくださいということで」 「北崎・・・てめえ」と直樹。  北崎は逃げ出した・・・。  蓮美坂。 「茉理さん。あの二人は実は奇跡のカップルなんだ」と北崎。 「は。奇跡ってどこが・・・」 「本来ならあの二人は出会うはずがなかったんだ」 「えええっ」 「誰かが歴史を改変した結果、あのカップルは存在しているのさ」 「誰かって・・・誰」 「それがわかれば苦労はないよ」 「・・・まったく。いきなり妙なこといわないでよ」 「あの二人が結婚したらミス天ヶ崎は茉理さんのいとこになるわけだ。どう思うかね」 「・・・悪い人じゃないし、明るくて楽しい人だし・・・いいと思うよ」 「たとえ杏仁豆腐中毒でもかい」 「・・・それはちょっと嫌かも」 「結先生の慢性プリン中毒に比べれば症状は軽いからまだましだが」 「・・・北崎。結先生は恩師なのにそこまでいうわけ」 「それはそれ、これはこれ」 「まあ確かにそうかもね」 「テレビドラマだとさこのへんでエンディングといったところかな」 「北崎さん、あんたね〜」 「・・・でもこれはテレビドラマじゃないからね。まだまだみんなの人生は続くと いうわけさ」  二人の前方に久住と美琴はいた。もちろん全部聞こえている。 「わたしと直樹って奇跡のカップルだったんだね」 「そうかもな」 「わたし、直樹と出会えてほんとうによかった」 「ああそうだな」 「・・・それにしても杏仁豆腐中毒だなんて・・・わたしはただ単に杏仁豆腐がちょ っと好きなだけなのに」 「どこがちょっとだ」  ・・・蓮美台学園の空はどこまでも青かった。                                     Fin. ---------------------------------------------------------------------- *語注 (*1)「欲しがり恋愛dollar」 (*2)「創竜伝」 (*3)「ウッド・ノート」 (*4)「エニグマ」 (*5)「へびつかい座ホットライン」 (*6)「蒼き流星SPTレイズナー」 (*7)「新スタートレック」 (*8)「青き波濤」 (*9)「タイムマシン」「ドラえもん」「バック・トゥ・ザ・フューチャー」 (*10)「それゆけ宇宙戦艦ヤマモト・ヨーコ」 (*11)『スコーリア戦史』 ------------------- 2004/3/4-2004/4/11            あとがき  「月は東に日は西に」(はにはに)SS、始めました(劇爆)。  というわけで最初のSSは、私がみんなと楽しい学園生活をしてみたいな〜と いうことで、私自身をモデルにしたキャラを投入してみました。  というわけで、北崎のモデルは私自身です(爆)。  えっとはっきりいって「作者サービス」なSSでございます(綾爆)  私の本名のファミリーネームはかなり特殊な読みなので大分県人以外は多分 読めません。というわけで読みやすい名前を設定してみました。  #誤解を防ぐためにいっておくと私は岐阜県人です。  #ちなみに北崎の由来は「遥かなる星」の北崎重工からだったりします。  北崎は成績が悪いんですが、私の高校時代の成績はもっとひどかったりします(爆) のであれでも修正してあります。今にして思えばよく留年しなかったなと思います。  高3のときは数学・理科が時間割に存在しないクラス(文々コース)にしたのが ちゃんと卒業できた勝因でしょうか。当時1クラス45人が定員なのにうちの クラスはなぜか48人もいたので教室が窮屈だったです。  そういえば蓮美台学園2年B組って何人いるんでしょうか。  #どうやら40人みたいですね  マンガなんかだとクラス名簿とかがばっと出てくるんですけどねえ。  作中に出てくる北崎の前の学校の話というのはネタじゃなくて、ほぼ実話に近い かも知れません(笑)。ああ蓮美台学園がいかにめぐまれていることか。  美琴の年齢はよく考えてみたら謎ですねえ。普通に考えれば5・15で17歳 なんだろうけど、実は違うかもしれませんし。  北崎が持っているファンクラブの会員番号というのは、私の持っている会員番号 をアレンジして書いてあります。桁数を増やしてあるので実際の番号はわからない ようになってます。  体育祭、夏休み、とかそのへんの北崎の話もほぼ実話に近いかな(笑)。  それから2007年度に単位制になるという話がかいてあります。  卒業してるから関係ないように思えるけど、改名は影響があります。  履歴書に高校名はちゃんとかかないといけないからなあ。  どうやら県教委の最近の改名パターンからすると、「○○○××」高校という 名前になりそうです。  前半は地名、後半はさてなにがきますやら。  松があるから松という文字が入ってしまった「本巣松陽(もとすしょうよう)高校 とか、昔有知郷だったから「関有知(せきうち)高校」とか・・・。  今回の話を書くにあたって母校の高校のウェブサイトをのぞいてみました。  ・・・私がいた頃は3学期制だったのに2学期制になってました(爆)。  時の流れの無常さを感じましたね。  それにしても直樹と美琴だと二人とも朝きちんと起きられるのか本当に心配です。  やっぱりここは、ほなみんに起こしてもらうとか(爆)。  ではでは。 by BLUESTAR(A.D.2004/4/11)