月は東に日は西に - Operation Sanctuary - SS/       「テレビ蓮美湾開局」by BLUESTAR  ・蓮美市の地上波テレビ局   JHK蓮美放送局   蓮美文化放送(HBB、帝国テレビ系)   蓮美放送(HHK、TBB系)   テレビ蓮美(THS、フジヤマ系)   蓮美朝夕放送(HABS、テレビ朝夕系)   テレビ蓮美湾(TVHB、テレビ東都系)  蓮美市は県最大の都市であり、県内でもテレビ放映は古くから行われていた。 民放4局体制になったのも全国的に早かったほうである。だが民放5局目となるテレビ 蓮美湾の開局は地上波デジタル完全移行後となった。             「週刊ザッツ・テレビガイド蓮美版」2015年6月1日号より           ★  2007年、蓮美市蓮美台区のアパート。 「直樹、蓮美に新しいテレビ局ができるみたいだよっ」 「何。本当かっ」 「ほらこの新聞記事。みてみて〜」  新聞の小さな記事だった。 「ふむふむ。テレビ東都(とうと)が系列局を新設するのか」 「そうだよ。仙台、静岡、蓮美など・・・ってあるでしょ」 「確かにな。でもな美琴。これさ2011年以降ってあるぞ」 「まあね。ともかくテレビ局ができるのはうれしいなっと」 「美琴テレビフリークだもんなあ」 「直樹だって結構みてるくせに」 「いえいえ。美琴さまにはかないません」  大学に進学した直樹と美琴は、大学近くのアパートに住んでいた。  二人が学園卒業後に、蓮美市が市町村合併を行い、その後指定都市となったため、 今では蓮美市の住所には行政区が追加されている。  渋垣家、蓮美台学園、蓮華寮も同じ蓮美台区である。  一緒にくらすようになってわかったことのひとつに、美琴がテレビ大好き人間だ ということがある。美琴のテレビの下には、DVDレコーダー(DVD+HDD+VH S。もちろん地上デジタル・BSデジタル・110度CSチューナー付)があり、それ は日夜稼働しているのだ。            ★ 「テレビ東都系のネット局だよね。この県ってテレビ東都系のアニメって結構やって ないのが多かったからそういうのがみれるようになるっていうのはうれしいかな」 「茉理ちゃんらしいコメントだよね、直樹」 「ああ。というか趣味まっしぐらだな」  数日後、直樹と美琴は渋垣家を訪れた。茉理の両親はずっと海外赴任のため茉理は一 人暮らしとなっている。 「いいじゃない。直樹だったアニメ結構みてるくせに」 「・・・茉理。どうしておまえがそれを知ってるんだ」 「美琴さんから時々そういう話とか電話とかメールとか・・・いろいろ」 「美琴。おまえってやつは〜」 「ごめん直樹。でもさ茉理ちゃんは直樹のこと心配してるからさちゃんと私が説明 してあげないとね」 「まあ一応ね。うちの両親からも直樹のことを頼むっていわてれるから。中東からじゃ なにかあってもすぐにかけつけるのは無理だしね。今いる街なんか日本へのエアライン の直行便がないっていうしね」 「へえそうなんだ。そうすると何度も乗り換えなの」 「そうなのよ。成田、シンガポール、カイロで乗り換えだって」 「結構面倒そうだねそれって」 「まあ西日本から北米への直行便もないからそれと似たようなもんじゃないのかな」 「ええっそうなんだ」 「確か何かでよんだけど、九州から北米だと伊丹・関西とか羽田・成田経由だって」 「あの茉理ちゃん、イタミ・・・ってどこの空港だったかな」 「大阪の空港だけど」 「そんな空港初めて知ったよ。うーんまだまだ知識が足りないなあ」  美琴は知らなかったが伊丹空港こと大阪国際空港は、騒音問題と関西空港利用促進のた めに2020年に廃止されていた。蓮美空港−伊丹空港の路線がなかったこともあり、 未来でのレクチャーには含まれていなかったのである。            ★  2011年がやってきた。  この年は、日本において地上アナログテレビ放送が終了する予定の年であった。  だがデジタル放送の普及はいまひとつであり、国内各地の団体・企業等からアナログ 放送終了の延期の声が巻き起こった。  政府は2011年の終了は法律に定められたことだからということで終了させようと したのだが、そうはいかなかった。  品不足のデジタルチューナーをめぐって、各地の家電量販店、百貨店、スーパー等で は混乱が発生していたのである。  この数年、日本政府は国内・国外ともに失政が相次ぎ、内閣支持率は低空飛行を続け ていた。そこへ追い打ちをかけるように、大臣の汚職発覚、愛人問題、自殺などが相次 いで巻き起こり、隣国との経済交渉も失敗。  国内では「アナログテレビ放送を守れ」「デジタルテレビ放送は金食い虫」といった スローガンを掲げてデモ行進が行われる。ついに海外の有名新聞に「日本のテレビを守 るために外圧をかれてもらいたい」という全面広告が載るに至った。  アメリカはさすがに外圧をかけなかったが、この広告に乗っかる形で、いくつかの 大国から実際に外圧がかかるに至ったのである。  結局、政府は外圧に屈したのか、アナログテレビ放送終了の1年延期と、希望者への デジタルチューナー配給を行うことにせざるを得なかったのである。            ★  2012年、テレビ蓮美湾が開局した。チャンネル番号は12。  地上デジタルはすべてUHFである。地上アナログ時代は、26チャンネルならその まま26だったが、地上デジタルでは実際のチャンネルではなく、1〜12の間の数字 を利用することになっている。 「久しぶり、なおくん」  「よお、保奈美。元気か」 「まあね。美琴と仲良くやってるのかしら」 「もちろんさ」  テレビ蓮美湾は、この20階建てのビルの2〜10階が局舎である。1階はレストラ ン「カーマイン」で結構人気があって繁盛しているようだ。  二人は食べながら美琴を待つことにした。美琴は残業で遅くなると先ほど直樹のケー タイに電話があったのだ。 「それにしても、この店のカーマインてシンプルな名前だなあ」 「そうね。隣の村にもそういえばカーマインていう喫茶店があるんだよ、なおくん」 「おいおい。いいのかよ」 「うんまあいいんじゃないかな。別に法的にはひっかからないみたいだし」  しばらくしてようやく美琴が現れた。 「ごめん、保奈美。ごめん、直樹」 「こんばんは、美琴。残業じゃしょうがないよ」 「ああそうだな。ささっとりあえず注文だ」 「合点承知だよ」  ・・・こうして3人での楽しいひとときがすぎていった。  美琴は昨日のテレビのスペシャルドラマの話を持ち出した。直樹と保奈美はそれに大 してそれは違うとかなんとか。            ★  公園でばったり遭遇。 「くーずみー、こんにちは」 「こんにちは。仁科先生は元気そうですね。またへんなものをつくってるんですか」 「へんなものって、そういういいかたはやめてほしいわね」 「すみませんねえ」 「ところで久住、あんたたちいつ結婚するのかしら」 「それがですねえ・・・お金がたまんなくってのびのびになってます」 「・・・ふーん。そうなんだあ」 「ええまあ。プロポーズはOKしてますんで、あとはお金次第ですね」 「お金がたまんないってどういうことかしら」 「美琴、テレビマニアでしょ。だからお金がほとんど、オーディオ・ヴィジュアルの 方面に注ぎ込まれてまして。このあいだなんか巨大プロジェクター買ってましたし。 しかも美琴はウェディングドレスはきてみたいけど、結婚という形式にはあまりこだ わりがないっていわれちゃいました」 「ぷぷ・・・はっはっは。なんというか天ヶ崎らしいわね。・・・まあ未来じゃ正式 な結婚にこだわらないカップルも多かったからねえ」 「美琴もそういってましたよ。聞いた話からすると、100年の間に日本人のモラル ってなんかどんどん低下してませんか」 「別に日本だけじゅなくて世界的傾向よ。特に日本の場合は人口減社会だったから、 政府も正式な結婚という形にあまりこだわれなくなってるのよ。下手にこだわったら さらに少子化が進んじゃうしね。」 「そういうもんですか」 「そういうもんよ」            ★ 「・・・今後もさらなる調査を続けたいと思っています」 「ありがとうございました、秋山准教授」  美琴と直樹がみていたテレビ蓮美湾のドキュメンタリー番組は終わった。  蓮美国際大学の秋山史緒准教授の調査を中心としたものであった。 「それにしても、寮長もすっかり有名になったよねえ」 「ああまったくだな。あの委員長が女冒険者になるとはなあ」 「人はみかけによらないっていうか・・・」            ★  2015年。なかなか結婚しない二人に対して、「オペレーション・ウェディン グ」が発動された。  メンバーには、結先生、仁科先生、理事長、深野先生、そして直樹と美琴の友人 たちが名を連ねた。  二人の抵抗は無意味だった。  かくして、日曜の蓮美台学園でついに結婚式が強制的に行われた。  結婚式の予算(といってもたいしてかかったわけではないが)は、オペレーショ ン・サンクチュアリ特別会計から出た。            ★ 「直樹、テレビっていいもんだよね」 「まあな」 「・・・それじゃお休みなさい」 「お休み、美琴」  そういって直樹は、マンションを出て出勤する。美琴は又、徹夜だったようだ。  いまやテレビ評論家として評論と講演で美琴は多忙だった。  あまりにも多忙ずきて前の会社を退職してからもう5年になる。  去年からすんでいるこのマンションは、巨大なハイ・プラズマテレビとプロジェ クターとたくさんのレコーダーが並んでいた。 「美琴に、少し仕事へらせって今日こそいうべきだな」と直樹はつぶやいた。                             Fin. ---------------------- 2007/6/11-7/13             あとがき  テレビ局についての話です。  蓮美市はそれなりに大都市ですが、テレビ東×の系列局はさすがにないだろう と考えてみました。  そんなわけでもし新しい系列局ができたら・・・という話です。  私の家は岐阜県ですが、テレビ愛知エリア外です。  (岐阜市とか大垣市とかあのあたりはスピルオーバーで電波が届くらしい)  東山タワー、瀬戸デジタルタワーが遠すぎるのですね。  隣の恵那市なんか光ファイバーケーブルテレビでもテレビ愛知が映らないという ありさまです。  テレビ愛知は県域局なので、みんながみられるようにするには、やはり愛知県が 岐阜県を合併するしかないんでしょうね。そもそもテレビ東京系のサービスエリアが 狭いのは局数が少ないだけでなくて日本の都道府県が47もあって多すぎるからで しょうね。というわけで県の数はやっぱり減らすべきですね。  ちょこっと未来なので蓮美市は指定都市になっていると設定してみました。  2011年からみなのでそのあたりの話もつけあわせてみました。  レストラン「カーマイン」は、店の店長さんが、故かがみあきら先生の大ファン だったからという裏設定があります(爆)。代表作が「さよならカーマイン」。  准教授という肩書きが日本で使用されるようになったのは2007年からですが、 100年後の未来ではそれゆえに多分「助教授」という単語が意味不明にな っているというのはありそうですね。 by BLUESTAR 2007/7/19