「ヴァイオレット・リーパー」Violet Leaper              To Heart Extraordinary SS NO.2              Based on To Heart for Windows      Written by BLUESTAR(E-mail:bluestar@neti.com)     SCENE.1 「ここはどこ・・・」 「やっと気がついたね、琴音ちゃん。お帰りなさい」  私はベッドから体を起こすと、目の前に中年の男性がいた。誰なのこの人。 「あの・・・どなたですか」 「やっぱしわかんないかなあ。まあ今じゃ中年のおっさんだからね」 「その声・・・藤田さん、ですよね」 「あたり」  そんな・・・だって・・・そんなはずは。 「信じられないみたいだね。まあ無理もないか。琴音ちゃん、君は30年間行方不明 になっていたんだ」 「30年。行方不明ですって。この私がですか」 「そう。だからおれは年を食ったのさ」 「なにかのジョークですよね」 「いや。これは現実さ。ほらこれが今日の新聞だ」  私は新聞を見た。2027年。本当に30年経ってる・・・なんてことかしら。  私は姫川琴音。高校1年。実は超能力者なの。私の力はいわゆるサイコキネシス (PK)ってやつ。手に触れずに物体を簡単に移動することができるのよ。  ただ、私は力をきちんと制御できなくてときどき暴走してたのよね。そんなこん なで私は周囲から孤立して、寂しい青春を送っていたものね。  高校に入学して、藤田さんと出会って、藤田さんは私がこんな女だと知った上で それでも友達になってくれたのよ。  少しずつ藤田さんと仲良くなっていったけど、藤田さんは私と違ってたくさんお 友達がいたわ。まあ当たり前よね。  そしてその日、私は下校しようとして、途中ですべてが真っ白に・・・ そうホワイトアウトしてしまったの。そして次に気がつくと30年が過ぎていたの。  こんなのってありなのかしら。いきなり30年。  ああこの私がなにしたっていうのよ〜 「・・・というわけで、きがつくと私はここにいたんです」  私は今朝(客観的にみれば30年前)からざっと説明してみた。 「そうすると、琴音ちゃんは誰かに誘拐されたわけでもなくて、いつのまにかここ にきてしまったということになるね」 「はい」 「オレはね、琴音ちゃんをよく知ってたから、誘拐とかの可能性は低いと思ってた んだ。だって力を使えばぶっとばせるからね」 「・・・それはそうですけど」 「それでも手がかりはなくて、途中で捜索を何度もやめそうになったよ」 「藤田さん・・・」 「でも琴音ちゃんはきっとどこかで生きているだろう、と思ったからずっとずっと 待つことにしたんだ。でも・・・30年は長すぎたよ」 「ごめんなさい」 「琴音ちゃんがあやまることはないよ。30年後に飛ぶつもりはまったくなかった んだろ」 「はい」 「そのあたりもそのうち調べないとなあ」  とんとんとん。ノック。 「お茶です、浩之さん」 「入ってくれ、マルチ」  えっ。マルチってもしかして・・・ 「はいどうぞ」  メイドロボのマルチが私と藤田さんにお茶を出してくれた。 「30年ぶりですね。姫川さん」 「・・・あなた確か試験期間が終わってそのまま戻ったんでしょ」 「はい。その後、量産型が発売されて浩之さんが私を購入したんです。研究所の人が 私のデータを納めたDVD-ROMを送ってくださって。それで私は浩之さんと再会できま した」 「じゃあなたは、あのプロトタイプ・マルチなのね」 「はい。来栖川エレクトロニクス製HMX-12型マルチ、製造番号00I0001です」 「あなたはメイドロボだから30年前とはもちろん変わってないわよね」 「はい。でも料理はだいぶうまくなりましたよ」  そりゃ30年もやってればうまくなって当然よね。 「マルチ、どう思う。琴音ちゃんは30年前と変わってないだろ」 「はい。確かに変わってませんね。肉体的にも45歳とはとても思えません」  45・・・ってどっからそんな数字が。 「45ってなによ、45って」 「簡単な足し算です。15+30で45です」  ・・・そりゃ確かにそうなるけど。  そのあと、私は藤田さんとマルチといろいろと話をした。  30年の間に世界も日本も大きく変化していた。  もちろん変わっていないものもあったけどね。 「ただいま、浩之ちゃん」  いつのまにか外はすっかり暗くなっていた。私の前に赤いストレートの髪の女性が 現れた。 「お帰り、あかり。こちらは誰かわかるかい」 「わかるわよ。あなたが・・・姫川さんね。30年前とちっとも変わってないわね」 「わかってるみたいだな」 「でも・・・なんで今ごろ出てくんのよ。浩之ちゃんはね30年もずっと待ってたの よ」 「ごめんなさい」 「あかり、そのくらいにしとけ。琴音ちゃんだってどうしてここにいるのかよくわか ってないんだ」 「・・・はあい。浩之ちゃん、昔の友人だからってくれぐれもヘンなことしないよう に。いいわね、浩之ちゃんてかわいい女の子に弱いんだから」 「はいはい。信用してくれよ、あかり」 「何を信用しろっていうのよ。結婚式の披露宴はすごかったわよ、姫川さん。浩之ち ゃんの友人がねいろいろと暴露してくれたの。私聞いてて恥ずかしかったわあ」 「はあ」 「でもね。私はそれがどうしたのっていってやったわ。浩之ちゃんが優柔不断で節操 なしでめろめろだけど、私はそんな浩之ちゃんが大好きだから結婚するのよ、文句 あるってね」 「・・・節操なし・・・優柔不断・・・あの・・・」 「それでまあ私は浩之ちゃんと結婚したんだけどね。そだ姫川さんは浩之ちゃんとは 別に複雑な関係とか特別な関係とかじゃないわよね」 「ええ・・・まあ」 「ならいいのよ。浩之ちゃんてマルチちゃんにも手出してるからねえ。気をつけてね」 「藤田さん・・・メイトロボにまで・・・」 「ごめん。でもオレは真面目だったぜ。それに合意の上だ。むりやりってわけじゃ ないからさ」 「・・・そうなのよね。もし、マルチちゃんが浩之ちゃんをムリヤリ誘惑してたりし たら、私マルチちゃんを引き離すつもりだったんだけどね」  突然未来にきてしまった私はそのまま藤田家にすむことになった。  というのは、まず、私の両親は2020年にすでに亡くなっていた。そして私の家 は2017年の区画整理の際に立ち退きになったのだという。私の家があった場所は 今では公園になっているそうだ。つまり、私にはいく場所がなかったのである。  もちろんあかりさんは嫌がったけど、それならしかたないわねといってくれた。  未来はいろいろと変わっているようだった。  政治、経済、世界情勢、日常の品々、コンピュータ、などなど。  私は新聞やワールドネットや本なんかをみたり、質問したりして、2027年とい う時代を理解しようとした・・・ 「ワールドネットってなんですか、藤田さん」 「そうだなあ。インターネットが発展拡大したものっていえばわかるかな」 「そうするとやっぱり世界中につながってるネットワークなんですね」 「まあね。昔と違ってワールドネットは生活に密着してるっていえばいいかな」 「はあ。そうなんですか」 「コンビュータのOSは、Tideっていうのなんですね。昔ありましたっけ」 「Tideは2011年に中国の大学生が開発したOSだよ。いまじゃどこでもこれだね」 「ふうん。そうなんですか」 「そうだ、琴音ちゃんに携帯を渡しとくよ」 「わあっ。いいんですか」 「ああ。古いやつで最近は使ってないやつだ。料金はオレのカードからだから」 「あっ。すいません」 「使い方はマニュアルをみてね」 「はい。・・・それにしても携帯にしてはなんかおっきいですね」 「ああそうか。携帯テレビ電話はみるの初めてだよね」 「携帯テレビ電話。・・・へえなんかすごいわねえ」 「いまじゃどこでもこれだからさ」 「おっきなテレビですけど・・・薄いですね」 「ああ液晶だからね」 「これって高くないですか」 「まあね。でも昔よりは安くなったけどね」 「これ・・・多分ビデオですよね。EVD-2ってありますけど」 「昔と違って今じゃテープじゃなくてEVDに取るのが普通だからね」 「EVD?」 「Extended Versatile Disc。DVDの上位互換だよ」 「そういうところも違うんですね」 「うっかりしてたね。お金はこれなんだけどね」 「なんだかプリペイドカードみたいですね」 「マネーカードっていうんだ。缶ジュースから電車の切符までたいがいのものには つかえるよ」 「へえ。便利そうですね」 「今は国内じゃほとんどクレジットカードかマネーカードだから、現金はあんまり使 われていないんだけどね」 「そうなんですか。あの現金だとなにかデメリットでもあるんですか」 「確か付加価値税の税率が少し違うんだよね」 「そうなんですか。やっぱり時代が違うんですね」 「ああ。そういえば琴音ちゃん、昔の現金はどのくらい持ってるかな」 「1万円くらいですけど」 「お札は2005年と2020年にデザインが変更になってるからね。古物商に持っ てけば結構いい値段になるかな」  ・・・いろんなものが確かに変わっていたけれど、藤田さんの優しさはは変わって いなかった・・・ 「今日はどこに行こうか、姫川さん」  藤田浩一(ふじた ひろかず)さんは、藤田さんとあかりさんの一人息子。  来栖川学園高校1年。時々私と一緒に出かけてるの。 「そうねえ。本屋にいってみたいな」 「本屋ね。学校の近くのグリーンロードってとこでいいかな」 「いいけど。どういう本屋なの」 「ごく小さな本屋だよ」  二人で道を歩いていく・・・  車のデザインは「昔」とあんまり変わってないようにみえるわ。でもとっても静か だったりするのね。今ではエレカ(電気自動車)が国内全体の半分以上になっているそ うだ。  街角でみかけるのはガソリンスタンド・・・じゃなくてエネルギースタンドだし。  途中でヤクドナルドのそばを通った。「Value Set \800/US Doller 3.90」 というのぼりが目に入る。  本屋の前。  「グリーンロード 来栖川学園高校前店 PHONE 5142-4999   www.greenroad-book.com.jpn.ter/45/」  中に入ってみる。  ほとんどが見慣れない雑誌のようね。 「本屋っていうのはあんまり変わってないですね」 「親父もそういってた。ただ値段が変わってるっていってたけどね」 「値段、ですか」 「そうさ。確かこの雑誌は昔からあるそうだけど、昔も500円だったかい」 「少年ホップ・・・昔は200円くらいだったようなきが・・・」 「やっぱりそこらへんが時の流れっていうやつなんだな」  私は本屋の中をぐるりとみて回った・・・