月は東に日は西に - Operation Sanctuary - SS/       「わが青春の超時空学園」by BLUESTAR  10月。  蓮美台学園2年B組に転校生がやってきた。 「エミリー・フェラシーニです。よろしくお願いします。アメリカ人なんですけど、 ずっと日本暮らしなので英語が話せません。そのかわり日本語はばっちりです。 エミリーと呼んでくださいね」  かわいらしい、金髪と赤いリボンの似合う女の子であった。  放課後のカフェテリア。特に入りたい部活はないということで、エミリーは天文部に 引きずり込まれていた。  いつもの天文部席には、そんなわけで直樹、美琴、広瀬部長、柚香、北崎、エミリー が座っている。 「エミリーさんて、趣味とかってあるの」とたずねる美琴。 「あえていうなら、読書ね。SFやファンタジーが好きなんだけどね」 「わたし、本はあんまり読まないからなあ。ははは」 「そうだな。少しは読んだらどうだ」 「直樹にはそれいわれたくないよ」 「あたしも同感。たまにはまともな小説くらい買ってみなさいよ」  そう言って、コーヒーを並べるウェイトレスの茉理。 「マンガばかり買ってる茉理にはいわれたくないなっ」 「直樹のばかっ。直樹なんかマンガすら買わないくせに」 「そこのウェイトレスさん、お客さんに対してなれなれしいわよ」 「茉理は俺のいとこだ。他の人にはちゃんとやってるよ」 「身内に対する甘えというわけね。そういうのは減点対象よっ」 「……以後気をつけます」 「わかればいいわ。初めまして、転校生のエミリー・フェラシーニです」  エミリーは右手を差し出す。二人は握手。 「渋垣茉理です。初めまして。……なんか外人さんみたいな名前ですね」 「茉理ちゃん、エミリーはアメリカ人だよ」と美琴。 「日本語がネイティヴなみなんですけど」 「ありがと。私は日本育ちだからね。かわりに英語が下手なの」 「それはそれは」  途中から結先生も加わる。といっても活動内容はいつもと同じだ。  蓮美祭も終わり、当面観測の予定もない。つまり雑談ということに。 「ああそういえば、昔の小説でフェラシーニて名前の出てくる話があったな」 「それどんな話ですか、北崎さん」とエミリーが問いかける。 「ジェフリー・ボーガンのクロノス・オペレーション、だったかな」  ボーガンは英国出身アメリカ在住のSF作家である。 「テリー・フェラシーニ、だったわね」 「そうです」 「どんな話なんですか」と結先生。 「第二次大戦にタイムトラベルしたアメリカの歴史改変部隊の話です。作戦名が、ず ばり、クロノス・オペレーション」と北崎。 「それでまあ、その部隊がアメリカが「負けた」歴史を改変しようとする話」 「えっっ。アメリカが第二次大戦に負けた歴史を改変しようとするんですか」 「そういう話なんです。ひねくれた設定だ」 「ちなみに本来の歴史っていうのは、やっぱりアメリカが勝利なんでしょ」と美琴。 「いいえ違います。本来の歴史は第二次大戦がおきずにそのまま21世紀になって るの。でもって主人公のウィンスライドは実は本来の世界の人間だったり」 「そのウィンスライドってひとはかっこいいばりばりのヒーローでしょ」 「確かにヒーローだが、60超えた老人だからなあ」 「それはいっちゃいけない約束よ」とエミリーがつっこむ。 「ですな」と北崎。 「そうすると、ウィンスライドって人は実は未来人なわけですね」  未来人というところを強調する結先生。 「ええそうよ。ウィンスライドは実は未来世界のCIAの大佐だったというわけ」 「エミリーさん。違う違う。それをいうならCIAFでしょ」 「ああそうね。似てるから間違えちゃった」 「そのCIAFってなに。わたしはじめて聞いたよ」と美琴。 「コンバインド・インターナショナル・アタック・フォース、国際合同攻撃軍。世界 評議会の軍なんだけどね」 「世界評議会ってなんなの」 「世界評議会(CW)、カウンシルズ・オブ・ワールドは第一次大戦後にできた国際組織。 この世界の国際連盟みたいに崩壊せずに21世紀も健在というわけだ」  半月もすると、すっかりエミリーも学園になじんだようだった。  楽しそうに日々を送っているかに見える。 「差し入れです、天文部のみなさん」 「ありがとう」と弘司。 「おおっ待ってました、保奈美」と美琴。 「ありがとうございます、藤枝さん」と柚香。 「いただきます、藤枝さん」と北崎。 「いつもすまないねえ」と直樹。 「それはいわない約束だよ、なおくん」 「はいはい」 「あの、藤枝さん。これって営業妨害ではないですか」とエミリー。 「そのとおり。だけどここのシェフも料理人保奈美さんのファンだから黙認なの。保奈 美さん、さっそくいただきますね」  そういいつつ、さりげなく差し入れのクッキーをつまむ茉理。 「なんだかなあ。まあそういうことなら私もいただきます」  そうしてエミリーも差し入れをつまむ。 「藤枝さんの料理はいつもうまいねえ。これなら味王さまや海原豪山(かいばらごう ざん)でもうまいぞーっというんじゃないかな」 「北崎はまた、わけのわからんたとえをするな」と直樹。 「味王というのは、マイスター味っ子という料理マンガにでてくる人でね味王料理会 というのを主催してるんだ。海原豪山は……」 「美味しいぜというまんがに出てくる料理人兼陶芸家。親子げんかに新聞社を巻き込ん でるあの人でしょ」と茉理。 「どっちも昔の作品、かな」と美琴。 「現在連載中の作品は昔とはいえんだろ」 「えっ。マイスター味っ子はとっくに……」と茉理。 「マイスター味っ子2が連載中だけど」  こうして、カフェテリアは今日もにぎやかだった。  11月4日から7日は修学旅行。  去年と同じく京都・奈良三泊四日である。  大雨や台風や大雪もなく、予定通りにスケジュールが進んだ。  11月がすぎてゆく。 「私がウィリアム・フェラシーニです、初めまして」  11月もそろそろ終わりに近い放課後。理事長室に呼ばれた結先生の前には背広で金 髪の男性がいた。 「担任の野々原結です、はじめまして。今日はどのようなご用ですか」 「娘の通っている学園を一度みたかったんです。ここはなかなかいい学校のようです」 「ありがとうございます」 「……さてと、エミリー。そろそろ私たちの話してもいいかな」 「私はいいと思います。なによりこの人たちは信頼できますと思いますから」 「エミリーがそういうならいいでしょう。では、さっそく。実は……私とエミリーも未 来人なんです」 「ええええっ」 「何を驚いているのかしら。そういう結先生だって未来人なのに」とエミリー。 「……えっっ。なんのことでしょうか」 「とぼけなくていいです。オペレーション・サンクチュアリのことはパパからよく教 えてもらいました。人類を救った英雄なのでもっと堅苦しい人かと思ってましたけど、 こんなにかわいらしいかただったというのは興味深いですわ」とエミリー。 「結。ごまかしきれないわ。それにしてもどうやってこの時代にきたの」と恭子先生。 「そうですよ。そのあたりが不思議です」と結先生。 「私とエミリーは、今から200年後の世界から、たぶん地震だと思いますがそのせい でタイムスリップしたらしいんですよ」とウィリアム。 「そうだったんですか。つまり23世紀人なんですね」とみつめる結先生。 「とりあえずこの時代なわけですし。それなら蓮美市へいこうと思ったんです。歴史 学者としてはオペレーション・サンクチュアリの現場に興味がありましたから」 「ミスター・フェラシーニは歴史学者だったとはね。それならこの時代にもいろいろと 詳しいのかしら」と恭子先生。 「ええまあ。私の研究分野は近現代史で、特に20世紀から23世紀のあたりです。 まあそんなわけで、なんとかサンフランシスコから蓮美市にたどりつくのに1年かかり ましたよ。はっはっは」 「なぜサンフランシスコにいらしたのかしら」と恭子先生。 「私とエミリーは、未来のネオ・アメリカのニューサンフランシスコに住んでいました から、タイムスリップしてからはサンフランシスコに向かいましてね。ちなみにオー ルド・サンフランシスコは2185年の地震で水没したんで放棄されました」 「そうなんですか。未来もいろいろとあるんですね」と結先生。 「とまあそういうわけで、日本にたどりつきまして。そしたらエミリーはあの有名な 蓮美台学園に通いたいといいだしましてね」 「あのですね……なぜ有名なんですか」と結先生。 「新国連、ユネスコの世界遺産。太陽系で最も有名な観光地。学校でも習いますしね。 それに私の場合、パパの資料の結先生の回想録を読んでよく知ってました。だから結 先生が担任ということでワンダフルと思いましたよ」とエミリー。 「結〜。回想録書いてるなんて初めて聞いたわ。今度みせてくれるかしら」 「恭子っ。私はそんなものまだ書いてませんっ」  顔を真っ赤にする結先生である。 「とまあそんなわけで。これからも娘をよろしくお願いします」  そういってウィリアムは頭を下げてお辞儀した。 「これからもよろしくお願いします。……それからパパがわざわざここにきた本当の 理由はね、実はパパったら結先生のファンなの。だからなわけ」 「ええええええっファンっていわれても。私はただの技術者ですよ」 「結先生のことは資料を読んでよく理解したつもりでしたが、本物がここまでラブリ ーなかただとは思いませんでしたよ。はっはっは」 「パパ緊張してるみたいね。まあ無理もないかな。本来会えない人に見事会えたんだ からね。……そうそうパパのファンぶりは徹底してるんですよ。なにしろ娘の名前にも ユイってつけるくらいですから」 「へえ。そうなの。そうすると、エミリーさんのフルネームってどうなるの」と恭子先 生が聞く。 「エミリー・ユイ・フェラシーニ、です」 「それはすごい名前ね。聞こえたかしら結」 「なんというか、そこまでされるとその……」 「未来では、キョウコとかユイというのは結構よくある名前なんですよ」とエミリー。 「えっそうなの」 「その通りです。私の亡くなった妻の名前は恭子でした。妻は日本人でしてね、恭子 という感じはもちろん仁科先生と同じ漢字でしたよ。なにしろあなたたちは英雄なん ですから。未来では誰もが知っていますよ」  1週間後、温室。  エミリーは天文部のみんなと茉理とちひろに自分が23世紀人であることを打ち明け た。 「エミリーさんも未来人だったんですか」と驚く茉理はなぜかちひろをみている。 「茉理さん、その「も」ってどういう意味なのかしら」とにやにやするエミリー。 「ええと、そのあの……」と口ごもる茉理。 「エミリーさん、未来人だなんてびっくりです」とちひろ。 「あなただって未来人じゃない。橘さん」とつっこむエミリー。 「あの、どうしてそれを」 「オペレーション・サンクチュアリのことなら学校で習ったから。仁科博士や野々原 博士や橘教授や天ヶ崎さんのことも出てくるしね」 「わたしのことまでばらさないでよっ」と美琴。 「私だけばらすのって不公平でしょ。みんなまとめて一蓮托生よ」とエミリー。 「そんなあああ」と美琴。  温室に日差しが降り注ぐ。 「この学園はすばらしい」と突然北崎が言い出した。 「なにがすばらしいのかしら」とエミリー。 「21世紀の学園なのに、22世紀人、23世紀人も一緒にいるんだから。このぶん なら次は24世紀人が出てくるかもしれないね。楽しみだなあ」 「う〜ん、確かにそうね。でもね生まれた時代が違ってもみんな友達になれるんだか ら。そうね、確かにこの学園はそういう意味ではすばらしいかもね」とエミリー。 「そこで諸君、ひとつ提案がある。この蓮美台学園を今日から超時空学園と呼びたいが どうかな」 「いいと思います」と柚香。 「俺も賛成」と直樹。 「超時空学園。確かにいいネーミングね。未来の歴史書では蓮美台学園はいろいろ形容 されているけど、確かにはまるわね」    《超時空学園。まさしく蓮美台学園はそういう学園だった。私はそこで学べた     ことを誇りに思っています。残念ながら元の時代には戻れないのは寂しいけ     れど、でもここには大切な友達がいるから、そして私はこの時代がこの街が     好きだから。蓮美台学園よ、永遠に》          エミリー・ユイ・フェラシーニ著「わが青春の超時空学園」より −−−−−−−−−−−−−−−− 2004/9−2004/10/5           あとがき  はにはには21世紀の話です。結先生たちは22世紀人です(はにはにDCで明言さ れてます)。  じゃ23世紀人を出したらどうなるだろう。そういう話です。  エミリーはえっと、「藍より青し」のティナみたいに日本語ばりばりです。  金髪でりぼん・・・しまった美奈子ちゃんみたいだ(爆)(「セーラームーン」)  作中の「クロノス・オペレーション」は「プロテウス・オペレーション」(ジェイム ズ・P・ホーガン、ハヤカワ文庫)をもじってあります。  というわけで、フェラシーニという名前は「プロテウス・オペレーション」の ハリー・フェラシーニからネーミングしてます。  サンティーニやマリーニでもチェザリーニでも別によかったんですけどね。  「マイスター味っ子」や「美味しいぜ」についてはアニメにもなってますので。  まあわかる人はわかるでしょう(苦笑)。  修学旅行が京都・奈良というのはそういうはにはにSSをみたことがあります。  「れっつごー修学旅行」と矛盾してるじゃないかとつっこみがきそうですが、私の はにはにSSは1作ごとにパラレル扱いになってます。  #もちろん以前かいたSSの続編ならその設定なわけですが。  まあそのあたりは「平行世界はなんでもあり」ということで^^;。  タイトルの「わが青春の超時空学園」というのは書き終えた後に決めました。  「わが青春のアルカディア」のもじりですねえ(爆)  ではでは。 by BLUESTAR(2004/10/7)