月は東に日は西に - Operation Sanctuary - SS/       「2107年世界SF大会(ワールドコン)レポート」by BLUESTAR  ●世界SF大会(World Science Fiction Convention;WorldCon)   年1回開催されているSFファンの世界的なイベント。ホテルでおこなわれる事が  多い。第1回は1939年、アメリカのボストンで開催。20世紀後半からは北米以  外でも開催されるようになってきた。   アジア初開催は2007年の横浜「Nippon2007」である。日本での開催は2007  年、2023年、2051年、2083年の4回。                  「銀河SFファン・ユニバースガイド」(2085年)     2007年12月/蓮美市、日本国 「久しぶりです、久住くん、藤枝さん」 「こんにちは、結先生」と、保奈美。 「こんにちは」と、直樹。  風の冷たい冬。学園の近くでばったりでくわした。 「相変わらず仲がいいわね。さしずめデート中かしら」恭子先生がつっこむ。 「…まあそんなところです」と、直樹。 「いいわねえ」  しばらく天気の話とか近況とかについて道ばたで話す4人。 「すっかり結先生も先生してますねえ。たまにはみら・・・向こうに行かなくていいん ですか」  未来のことを向こうといいかえる直樹である。 「ああ、それがねえ、久住。結ったら明日からしばらく向こうにおでかけよ」 「あの装置の定期メンテナンスですか」と、保奈美。  時空転移装置のことである。 「違うわよ。何でもわーるどこんとやらに招待されたんですって」 「…その、わーるどこんっていったい何ですか」 「それが、私もよくしらないのよ」  首を振る恭子先生。 「ワールドコンというのは、世界SF大会のことだよ。SFファンのお祭りみたいなも のだいえばいいかな。ワールド・サイエンス・フィクション・コンヴェンションを略し てワールドコンというんだよ。結先生はもしやファン・ゲスト・オブ・オナーですか」 「はい、そうです。よくわかりましたね北崎くん」と、結先生。 「そりゃもう」 「…ああびっくりしたぜ。北崎か」 「やあ。なにやら話をしてんたでつっこんでみました」 「それにしても、そのファンなんとかってなんなんだ」と、直樹。 「ファン・ゲスト・オブ・オナー。名誉あるファンのゲストということだな。招待され るんだからすごいことだよ」 「でも、どうして結先生が招待されるのかしら」と、保奈美。 「そりゃ当然でしょう。結先生は、あの装置の開発スタッフの生き残り。あの装置は、 ウェルズ以来SFファンの長年の夢だったタイムマ…を実用化したんだからね。そう いう専門家から話を聞いてみたいと思うのは当然さね」 「まだまだ不完全ですけどね」と、結先生。 「結、それをいったらおしまいよ」と、恭子先生。                ★     2107年12月/蓮美市、日本列島、地球  結先生は、会場であるホテル・フェデレーション・蓮美にやってきた。  現在蓮美市内で営業している数少ないホテルのひとつである。  ホテルの入り口には、大きなポスターがずらりと並べられていた。    2107年世界SF大会 Nippon2107    (第165回世界SF大会&第146回日本SF大会)     December 10-14,2107 Hasumi City,Japan,Earth      URL www.nippon2107.jp  結先生は、ホテルのロビーの片隅で大会の参加登録をすませた。  ホテルのロビーにはいろんなポスターが貼られている。    クリスマス・パーティー’07      日時−07/12/24 1800。ホテルでの楽しいひととき      問い合わせ−ホテル・フェデレーション・蓮美        TEL +81-*-5555-2901 URL hasumi.hotel-federation.hotel    ニューイヤー・フェスタ・蓮美'08      日時/07/12/31〜08/1/1      問い合わせ−蓮美市役所       TEL +81-*-5555-2001 URL city.hasumi.umiyama.jp 「ファン・ゲスト・オブ・オナーの野々原結さんですね、ワールドコンへようこそ」  実行委員長と名乗る青年の作家が挨拶した。 「どうも」 「キャンプの人から結さんについてはいろいろと伺いましたよ」 「そうですか」 「講演では21世紀の世界についてもいろいろと話を聞きたいですね。100年前の原 始的な世界での生活はさぞかし苦労されたでしょう」 「それはそうですけど…でも、少なくとも100年前にはマルバスがありませんから」 「マルバスがない。それはとてもいい世界ですよね。100年前というと、日本の黄金 時代ですよね。いい時代ですよね」 「確かにいい時代ですけど、この時代とは色々と違いますから」 「ウィンドウズ、ガソリンカー、ビデオテープ、甲子園…確かに色々と違いますね」 「ええそうなんですよ」  やがてロビーに人が増えてきた。  大会の参加登録が次々に行われる。日本語だけでなく、英語や北京語、フランス語も まじるようになった。  今回のワールドコンは、マルバス後初の復興ワールドコンということになっている。  マルバスというウィルスによって人類はその90パーセント以上の人口を失った。  100億人を超える地球の人口爆発問題はマルバスによって解消された。だが今後は 人口過少問題で人類は苦労することになろう。「現代社会」は大量消費社会だったが 今後は社会システムを変えざるを得ないのだ。  大会参加者は、日本が一番多いようだが、アジア、オセアニア、北米からも参加者が あるようだ。  ワールドコンの開催は通常3年前の大会で決定する。しかしマルバスによって長期に 渡り世界は混乱・崩壊しており、最後のワールドコンからかなり経っている。  今回の大会は、日本の作家が有志たちと組織を作り、ワールド・サイエンス・フィク ション・ソサエティにメールで連絡して立候補の意志を表明し、決定したものだ。  既に、オリンピックやエクスポジションの復活が決定しており、それならばというこ とで彼らは動いたのである。ワールドコンは北米が発祥であったが、北米はマルバスに より大都市がすべて壊滅していたし、生き延びた人々は生き延びるのに精一杯だったし、 ところによっては近くの都市と対立状態のところまであった。  マルバスによって世界の交通システムは崩壊しており、現在では長距離移動は命がけ にならざるを得ない。マルバス以前、たとえばアメリカのサンフランシスコから日本の 蓮美市へは、サンフランシスコ空港から超音速ジェット旅客機であるボーイング178 7やエアバス1380などで東京湾空港へ移動し、そこからリニア新幹線・在来線か、 あるいはオーシャン・ハイウェイで蓮美市へと向かえばよかった。だが現在では世界の 空は、小型機ばかりで、リアジェットやセスナやプロペラやヘリコプターが主流になっ てしまったのである。  翌日。  オープニング・セレモニーから大会は始まった。実行委員長が開会の挨拶をする。 「…今回の参加者はわずか200人にすぎません。しかし、現在の世界情勢からすれば たくさん集まったというべきかもしれません。今回の参加者は、開催地である日本はも とより、アジアや北米からもきています。一番遠距離の参加者は、時空を超えて100 年前から参加してくださったファン・ゲスト・オブ・オナーの野々原結さんでしょう」  ここで会場からぱらぱらと拍手があった。 「昔の平面テレビドラマで、宇宙それは人類最後の開拓地、という有名なフレーズがあ りますが、時空転移装置がある現在ではこう修正すべきでしょう。宇宙と時間それは 人類最後の開拓地、と」  会場の半分ほどが拍手する。「スター・パトローラー」は、この時代でも有名な作品 なのだ。なにせ約140年の間にテレビシリーズ22本、映画45本も作られている。 「最後に。今回の大会への参加は北米から参加者のかたは途中で飛行機が墜落しかけ たりして命がけだったときいております。  まさに”2080年ワールドコンレポート”を地でいった道中だったわけです。よ くぞいらっしゃいました。では、みなさん大会を楽しんでください」  会場全体の拍手が鳴り響いていた。 「あの、さっきの2080年ワールドコンレポートって何ですか。意味がちょっとわか らなかったんですけど」と結先生がたずねた。 「1980年に発表された短編小説で、100年後の文明崩壊後の2080年のワール ドコンの模様を書いた作品です。あれに比べたらこの世界はまだましなんですよ」 「…そんな小説があるんですか」 「ええ。その小説では4年に1度のワールドコンのために世界中から命がけで参加者が 集まってくるんです。実をいうと今回の大会を企画したのもこの小説のことが頭に あったからなんです」 「そうだったんですか」  幼い頃から結先生にとって本は友達だった。たくさんたくさん読んだ本の中にはSF もたくさん含まれていた。結先生のお気に入りのSFはほとんどがいわゆるハードSF であった。オペレーション・サンクチュアリに関わるようになってからは、人類が時間 移動について持っているイメージの参考という名目で時間テーマのSFを読んだもので ある。「タイム・マシン」「タイム・シップ」「タイム・パトロール」はもちろんのこ と、「サマー/タイム/トラベラー」「時間的無限大」、果ては「超時空宇宙空母さい たま」まで。  それでわかったことは人類は時間移動に対して大きな夢を抱いている、ということで あった。  結先生は大会を楽しむことにした。  ディーラーズ・ルーム、マスカレード、パネル・ディスカッション、平面映画上映 などなど。  大会には夜と昼の区別がないようで、プログラムをみると夜中にも予定がくまれてい る有様だったのである。  最終日の朝。  結先生の講演が行われた。講演会場にはどうみても全員がきていた。  結がプログラムをよく見ると、この時間には他に予定が組まれていなかったのだ。  そして、講演を始めた。  オペレーション・サンクチュアリのことについて、色々と説明をした。  とはいってもあまり難しい話もなんだし、機密の部分はむろん話せない。  そこで、そこでスタッフに関する話を中心にした。特に理事長と恭子の事について。  予定時間の半分ほど過ぎたところで、21世紀の生活に関する話をした。  たった100年とはいっても、色々と違いが大きく、戸惑うことや驚くことが多い こと。学園の教師としての生活。おいしいプリンのこと。そして天文部のこと。 「…まあいろいろありましたけど、21世紀の生活はなかなか楽しいです。時空転移 装置のメンテナンスもあるので、私はこれからも時々22世紀にやってくる予定です。 でも私にとって今では21世紀の蓮美市が新たなる故郷なんだと思っています」  結先生が頭を下げると、会場は拍手で満たされた。  中には立ち上がるものもいた。スタンディング・オペーション。  やがて、大会は終わった。 -------------------- 2005/9/7-2005/9/8,9/30           あとがき  100年後のワールドコン。今回はそういう話です。  結先生は100年後からきたわけで、その時代のワールドコンはどうなってるのか な・・・という話。  元ネタは1980年にF&SFに発表された「2080年世界SF大会レポート」 という小説です。  はにはにはちょうど100年にまたがる話なので・・・安直ですか??^^;  ちなみになんで100年後が2107年なのかというと、ワールドコン日本初開催 100周年ということでメモリアル・イヤーだからってことなんですね。  実は、現実世界の2007年のワールドコンは日本開催予定でして、そこから 2007+100で2107という計算になるんですね。  今回の話は、直樹たちの卒業後です。だからばったり出会ったことにしました。  「スター・パトローラー」はもちろん某有名作品がモデルです。最初のテレビシリー ズが1966年ということで2107−1966で141年間になりますよね。  「タイム・シップ」は「タイム・マシン」の続編です。  「タイム・パトロール」も有名すぎるので説明省略。「サマー/タイム/トラベラ ー」は2005年の作品です。「時間的無限大」は壮大か時間スケールの作品です。  「超時空宇宙空母さいたま」は2025年あたりに発表されたタイムトラベル架空戦 記という設定です(笑)  #本屋さんに注文とかしないように。  時は24世紀くらい。日本人の末裔が辺境惑星で宇宙空母をつくりあげます。  21世紀に消滅した日本を復活させるべく、宇宙空母でタイムトラベルをやらかし て、1942年で歴史改変をすすめるという展開・・・かな。  ちなみにさいたまというのは主人公の祖先の住んでいた都市の名前ということに しておきましょうか。  ではでは。 by BLUESTAR 2005/9/8.  追記。  「2080年世界SF大会レポート」は、イアン・ワトスン著「スロー・バード」 (ハヤカワ文庫SF、1990年)に収録。新装版2007年。 by BLUESTAR 2007/6/10.